Aynuitak Huskokampi Aomarepu アイヌ語古記録データベース Early Records Database of the Ainu Language

蝦夷方言藻汐草

えぞほうげん もしおぐさ · Ezo hōgen moshiogusa · 上原熊次郎・阿部長三郎 · 1792 · 辞書・語彙集 · 地名 · 集字 · 目録レコード

蝦夷方言藻汐草 巻末

ユーガラ 浄瑠璃の事

伝本・翻刻・研究史

翻刻 mkpoli · Wikisource

原文に添えられた日本語訳をルビで示す。下段は推定される読みと現代語訳。

本文・訳について

原文を句点で区切り、各句に推定される読みと現代語訳を添えた。原文中の日本語訳はルビで示す。読みの […] は未詳、[word?] は推定、訳の〔 〕は補足や不確かな解釈を表す。語末の子音や母音、語の区切り、人称には不明な点が多い。文字の取り違えや順序の入れ替わりも、傍訳や文法、繰り返し現れる表現から考えられる。an=・a=などの人称接辞やci-の働きにも複数の解釈がある。発言中の「私」はその発言者を指す。発言の始まりと終わり、日本語訳の主語は、文脈から判断した箇所がある。

解釈:ERDAL 自動読解(試案) · 2026-09-09

両翻刻とも片仮名の異体字をネ・ヰとして表し、Wikisourceと「みんなで翻刻」の本文を比較した。日本語訳や注記、空白、斜線、句点は比較に含めない。句点の位置が異なる箇所は、複数の句をまとめて照合している。表記の違いは各句の「翻刻対照」で確認できる。

カナ本文の異同: 190, 281, 289

編集履歴・翻刻者 · CC BY-SA 4.0 · JSON · TEI

01ひとりの暮らしと沖の岩

1

タネ(此)シネ(独)ニハテキ(而巳)ヲカイ(居)。

そのときは、ひとりきりで暮らしていた。

81コマ・2行
2

ネータ(何)ウヱベケレ(説)カ。

[ ?]

〔どこの噂話も、〕

81コマ・2行
3

イラムシカレ(不知)。

知らずにいた。

81コマ・3行
4

シヨイ(外)タ。

外へ、

81コマ・3行
5

アシヌ(出)ワ。

出て行って、

81コマ・3行
6

カル(見)。

眺めた。

81コマ・3行
7

ヲロタ(然)アナキ(所)ネ。

すると、そこには、

81コマ・4行
8

チヨ(吾)カイコタン(邑)。

私の村の、

81コマ・4行
9

ウシ(江)レプケ(洋)タ。

その湾の沖に、

81コマ・4行
10

ワタラ(岩)シネフ(一)。

岩がひとつ、

81コマ・5行
11

ロシケ(立)ワヲカイ(居)。

そびえ立っていた。

81コマ・5行
12

ワタラ(岩)キタイ(頭)ケ。

その岩の頂には、

81コマ・6行
13

カンナ(龍)カムイ。

天のカムイが、

81コマ・6行
14

ツフミ(戯声)アン(有)。

遊ぶ音がしていた。

81コマ・6行
15

ヲロハ(然夫)アラキ。

そこからやって来て、

81コマ・7行
16

カモイグリ(龍影)アナツ(歟)。

カムイの姿は、

81コマ・7行
17

チヨーカイ(我)チヤシ(城)。

私のチャシ、

81コマ・8行
18

チヤシ(郭)カンバラ(外)。

チャシの入口に、

81コマ・8行
19

コウヱ(捲)カラバ。

集まっていた。

81コマ・8行
20

タンベ(此)バテキ(而巳)。

ただ、そのことだけを、

82コマ・1行
21

ネウシヤラ(悦)シリニ(跡)。

物語を楽しむような様子で、

82コマ・1行
22

アンギ(有事)ガンネ。

そうしながら、

82コマ・2行
23

ヲカイ(居)アン(有)。

私は暮らしていた。

82コマ・2行

02訪れを告げる音

24

ヘンネ(非)ネプカ(何)。

何事にも、

82コマ・2行
25

アネヲ(故)。

[?]

〔煩わされずに、〕

82コマ・3行
26

ヲカイ(居)アナイケ(時)タンシ(此)ネト(日)。

暮らしていると、ある日のこと、

82コマ・3行
27

アヌン(外)チヤシ(城)。

私の住むチャシ、

82コマ・4行
28

チヤーシ(城)カンハラ(棟)。

その入口で、

82コマ・4行
29

ケウ(震)コシヤヌ(動)。

大きな音が響いた。

82コマ・5行
30

タプ(是)ツラノ(共)。

それとともに、

82コマ・5行
31

リコフイ(家内)チヤタ。

天窓のところで、

82コマ・5行
32

カモイ(神)タムネ(刀)。

神の刀のように、

82コマ・6行
33

アベ(火)ニケプ(光)ネ。

火の光のように、

82コマ・6行
34

マツ(発)コシヤム(散)。

[?]

〔ぱっと立ち現れた。〕

82コマ・6行
35

ヱヤリ(客)シヨ(㘴)ネ。

[ ?]

〔向かいの座に、〕

82コマ・7行
36

アイノヘネ(蝦夷者)ワ(𫤰)。

[ ?]

〔人らしき者が、〕

82コマ・7行
37

シロシマ(落)フン(音)ガ。

座り込む音が、

82コマ・8行
38

リンコ(鳴)シヤヌ。

[?]

〔どんと響いた。〕

82コマ・8行
39

フミ(鳴)アシグニプ(物)。

音を立てるものを、

82コマ・8行
40

アノヤネヽ(莫𤇟)。

不審に思って、

83コマ・1行
41

インカラ(㸔)アニケ。

目を向けると、

83コマ・1行

03最初の客の装い

42

イネ(孰)コタン(所)タ。

[ ?]

〔どこの村の、〕

83コマ・1行
43

(神形)。

カムイなのだろうか。

83コマ・2行
44

アシユル(告)ゲセ。

[ ?]

〔噂に聞く、〕

83コマ・2行
45

チアラゲ(女神)シデツカ。

[?]

〔美しい、〕

83コマ・3行
46

カムイ(霊)ネアンタ(形)。

カムイが、

83コマ・3行
47

カネ(金)コソンツ゚(𮉚)。

金の小袖を、

83コマ・4行
48

ツーペ(二)レペ(三)。

二枚、三枚と、

83コマ・4行
49

アヌボケチユ(着)。

[?]

〔重ね着して、〕

83コマ・4行
50

キムイカシタ。

頭の上に、

83コマ・5行
51

カネホンカサ。

金属の小さな笠を、

83コマ・5行
52

イヤケイムイカ。

[?]

その頭の上に、

83コマ・5行
53

ラゝバカンネ。

押さえつけたまま、

83コマ・6行
54

ツマムカシタ。

胴の上には、

83コマ・6行
55

カムイコロベ。

神の持ち物を、

83コマ・7行
56

イヤイツマムカ。

[ ?]

自分の胴の上に、

83コマ・7行
57

クツポケチユ。

〔刀などを〕腰に差して、

83コマ・7行
58

タンニフカシ。

刀の上に、

83コマ・8行
59

テツラレヽ。

[?]

〔手をかけて、〕

83コマ・8行
60

ツ゚シケ。

そうしながら、

83コマ・8行
61

イタコマレ。

言葉を発した。

84コマ・1行

04ルウェサニに戦いを語る

62

タンルウヱシヤニ。

「このルウェサニよ、

84コマ・1行
63

アロシネプニ。

たった一人で、

84コマ・2行
64

ヤヽハシヤツ。

[?]

〔身寄りがなく、〕

84コマ・2行
65

イキコロカイキ。

そうではあるけれど、

84コマ・2行
66

ツイマガンネ。

はるか遠く、

84コマ・3行
67

クルイセモシリ。

クルイセの国の、

84コマ・3行
68

モシリバケ。

〔国の先を、〕

84コマ・4行
69

イワニレワ。

[ ?]

〔岩山にして、〕

84コマ・4行
70

イウランコバシテ。

〔力を合わせて。〕

84コマ・4行
71

タンベクシユ。

そのために、

84コマ・5行
72

イコヲタン。

[?]

〔下された、〕

84コマ・5行
73

イワタフカシ。

岩山の上へ、

84コマ・5行
74

ヲランチムツペ。

降りてきた刀。

84コマ・6行
75

アイヌツ゚ミ。

人間の戦いを、

84コマ・6行
76

アネヌヽカ。

[?]

〔十分に戦い、〕

84コマ・6行
77

カムイツ゚ミ。

カムイの戦いを、

84コマ・7行
78

アネタンギガ。

[?]

〔ともに戦おうとして。〕

84コマ・7行
79

タンベクシユ。

だから、

84コマ・7行
80

イヤアシユクシヤクノ。

[ ?]

〔装束もなく、〕

84コマ・8行
81

カムイツ゚ミイコホフニ。

カムイの戦いが私に降りかかった。

84コマ・8行
82

ベヽケレ。

[?]

〔知らせや話、〕

85コマ・1行
83

ツイマアシユル。

遠くの噂を、

85コマ・1行
84

アヌプネクシユ。

私は聞いていたので、

85コマ・1行
85

ウライケアシユル。

殺し合いの噂を、

85コマ・2行
86

チコアシユルクル。

[?]

〔その知らせを、〕

85コマ・2行
87

アネイガラカ。

[?]

〔そのことを聞かされていた。〕

85コマ・3行

05ウララモシリと名乗る

88

▲アノヤネネフ(▲カキヨフカヨ)。

私が好まないのは、

85コマ・3行
89

ヤイモシリシナ。

[?]

〔自分の国を隠す〕

85コマ・4行
90

ネアクシタフ。

ということだから、

85コマ・4行
91

アンコロモシリ。

私の国の、

85コマ・4行
92

レーヘダフ。

名は、

85コマ・5行
93

ウラヽモシリ。

ウララモシリ。

85コマ・5行
94

イラチノ。

[ ?]

〔お前と同じように、〕

85コマ・5行
95

アラバシヤクベ。

全く身寄りのない者

85コマ・6行
96

アネイクシユ。

なのだから、

85コマ・6行
97

ウライアニ。

[ ?]

〔戦いによって、〕

85コマ・7行
98

イグルガシケ。

〔お前の身に、〕

85コマ・7行
99

チタモマレ。

[?]

〔刀を振り下ろす、〕

85コマ・7行
100

アネカラカリ。

[ ?]

〔つもりで、〕

85コマ・8行
101

ネグンベシユ。

〔いるのだから、〕

85コマ・8行

06サンプッの人とその妹

102

タンルウヱシヤニ。

このルウェサニへ、

85コマ・8行
103

チコシレバ。

[?]

〔たどり着いた、〕

86コマ・1行
104

ヱガラカラ。

[?]

〔というわけだ。〕

86コマ・1行
105

イコロコタン。

[ ?]

その村に、

86コマ・2行
106

シヤンブツ゚ンク。

サンプッの者が、

86コマ・2行
107

ヲガイコロカ。

暮らしているけれど、

86コマ・2行
108

カムイツ゚。

カムイの戦いが、

86コマ・3行
109

アネアフチカラ。

[?]

〔起こった。〕

86コマ・3行
110

キアクシユ。

そこで、

86コマ・4行
111

シヤンブツング。

サンプッの者の、

86コマ・4行
112

シネツレシネ。

たったひとりの、

86コマ・4行
113

クラツレシ。

妹が、

86コマ・5行
114

トモチヌカル。

[ ?]

〔巫術で占うことを、〕

86コマ・5行
115

イヰヱカラカ。

[?]

〔した。〕

86コマ・5行
116

キワネヤキネ。

そうするなら、

86コマ・6行
117

ラムレテンノ。

安心して、

86コマ・6行
118

カムイツ゚ミ。

カムイの戦いが、

86コマ・6行
119

イコ。

[ ?]

〔私に降りかかっても、〕

86コマ・7行
120

カヨイキ。

[ ?]

〔助太刀を、〕

86コマ・7行
121

アネイカラカ。

[?]

〔私はするだろう。〕

86コマ・7行
122

キクンベネグシ。

そうするつもりだから。

86コマ・8行

07女性をめぐる条件

123

タンメノコ。

この女性を、

86コマ・8行
124

チコヲシウヱ。

[?]

〔送り出すように、〕

87コマ・1行
125

イヰヱガラガ。

[?]

〔そうして、〕

87コマ・1行
126

キワネヤキネ。

そうするなら、

87コマ・1行
127

ツイマモシワ。

遠い国から、

87コマ・2行
128

カモイウタレ。

カムイたちの、

87コマ・2行
129

コハキシヤマ。

そばへ、

87コマ・3行
130

アイ。

[?]

〔私は飛び込み、〕

87コマ・3行
131

イヱムコタウキ。

[?]

〔身内を斬ることに、〕

87コマ・3行
132

アネイガラカキワネヤキネ。

[?]

なったなら、

87コマ・4行
133

イコロコタン。

[ ?]

その村の、

87コマ・5行
134

カムイジンキ。

[ ?]

〔カムイの先祖の、〕

87コマ・5行
135

アンルゲセ。

すぐ後に、

87コマ・5行
136

コライブ。

[?]

〔受け継がせることも、〕

87コマ・6行
137

イヤイヌケシテ。

[?]

〔できなくなるだろう。〕

87コマ・6行
138

キワネヤツキネ。

そうするなら、

87コマ・6行

08人間とカムイの関係

139

イタキネクシユ。

そう語ったので、

87コマ・7行
140

シヤンツ゚ンマ。

サンプッの女性が、

87コマ・7行
141

トモチヌカル。

[ ?]

〔巫術で占うことを、〕

87コマ・8行
142

イヰヱガラカ。

[?]

〔すると、〕

87コマ・8行
143

キワネヤキネ。

こう語った。

87コマ・8行
144

カムイツ゚ミ。

カムイの戦いが、

88コマ・1行
145

イコアナツカ。

私に起こったとしても、

88コマ・1行
146

ハロミヤシ。

[?]

〔ほほえみながら、〕

88コマ・2行
147

チシキゲチユ。

[?]

〔目で突き刺す、〕

88コマ・2行
148

セムコラチ。

かのように、

88コマ・2行
149

イヱガラワネヤ。

[ ?]

〔そうして、その〕

88コマ・3行
150

モシリゲセシユ。

[ ?]

〔国の端にまで、〕

88コマ・3行
151

カモイシンジツ。

カムイの血筋を、

88コマ・4行
152

コシヒラシヤ。

[?]

〔広げ、〕

88コマ・4行
153

キワネヤキネ。

そうするなら、

88コマ・5行
154

アイノシンケウ。

人間の血筋も、

88コマ・5行
155

ヲタンネヤキネ。

長く続くなら、

88コマ・5行
156

イツレンカムイ。

私の守り神に、

88コマ・6行
157

アイヌガリナウ。

人間の作るイナウが、

88コマ・6行
158

ゴワシワネヤツ。

[ ?]

〔立つなら、〕

88コマ・7行
159

モシリケシタ。

国の端で、

88コマ・7行
160

カモイバセプネ。

尊いカムイとして、

88コマ・8行
161

アイノコタン。

人間の村を、

88コマ・8行
162

イシカシ マヤツ。

[ ?]

〔守るなら、〕

88コマ・8行
163

ツバセカムイ。

二柱の尊いカムイが、

89コマ・1行
164

イツカツシヤマ。

[?]

〔私たちを見守り、〕

89コマ・1行
165

コラメチユ。

[?]

〔心にかけてくださる、〕

89コマ・2行
166

キナンコンナ。

だろうよ。

89コマ・2行

09客の発言が終わる

167

アリアンヘ。

そういうことを、

89コマ・2行
168

カムイヘネワ。

[ ?]

〔カムイらしき者が、〕

89コマ・3行
169

イヤツシヨク。

[?]

〔口にした。〕

89コマ・3行
170

イタクツ゚ラ。

そう語りながら、

89コマ・3行
171

アベツ゚イシヤム。

炉のそばに、

89コマ・4行
172

ホラリ。

[?]

〔とどまっていた。〕

89コマ・4行
173

ツイカシケ。

そうしながら、

89コマ・4行
174

イヱタンネフカ。

[ ?]

〔刀の上に、〕

89コマ・5行
175

タラバカンネ。

[ ?]

〔夢に見ながら、〕

89コマ・5行
176

イセラムゲシタ。

[?]

〔夜明け近くに、〕

89コマ・5行
177

ツ゚ニハシイタフ。

荒々しい言葉の、

89コマ・6行
178

イヰヱセレコウシカ。

[?]

〔響きとともに消えた。〕

89コマ・6行
179

タンベヲツタ。

そのとき、

89コマ・7行
180

イヤコツイマ。

[-?]

〔長いこと、〕

89コマ・7行
181

コシラムシユイ。

[?]

〔考えを巡らせていた。〕

89コマ・7行
182

イネヲカイ。

大勢の人が暮らす、

89コマ・8行
183

イネモシリノ。

[?]

国を、

89コマ・8行
184

チバヨカイデツ。

[ ?]

〔しばらく歩き回り、〕

90コマ・1行
185

シユンツ゚ミ。

[ ?]

〔大きな戦いでは、〕

90コマ・1行
186

チアバシヤツカ。

身寄りを失った身で、

90コマ・1行
187

イヱガラカ。

孤立していた。

90コマ・2行
188

キークシシユ。

[ ?]

〔そういうわけで、〕

90コマ・2行
189

ラムチシユウヱ。

[ ?]

〔心を巡らせる、〕

90コマ・3行
190

イヱガラカヱ。

[ ?]

〔その思いを抱いて、〕

90コマ・3行
191

ヲガイヲツタ。

そうしているとき、

90コマ・3行

10刀を抜く

192

イモイレヤツカ。

ゆっくりでも、

90コマ・4行
193

アンノチツ゚ヱ。

すっかり斬り、

90コマ・4行
194

アネカラカワ。

私はそうして、

90コマ・5行
195

アランマクシユ。

[ ?]

〔いつも、〕

90コマ・5行
196

アムデムシ。

[ ?]

私が身に帯びた刀の、

90コマ・5行
197

シヤンニツカシ。

突き出た柄の上に、

90コマ・6行
198

アノテツカイ。

[?]

〔私は手をかけ、〕

90コマ・6行
199

シヤヤシヤラカタ。

[ ?]

〔鞘の端から、〕

90コマ・7行
200

ヘツケムカ。

[ ?]

〔刃が飛び出し、〕

90コマ・7行
201

コセベツケ。

[?]

〔音を立てた。〕

90コマ・7行
202

シアツシヨイネ。

[ ?]

〔向かいの座へ、〕

90コマ・8行
203

タンレツペカ。

[ ?]

〔その喉のあたりへ、〕

90コマ・8行
204

アコタムシユイ。

私が刀を振るい、

90コマ・8行
205

アネタメムコ。

[?]

〔私の刀身の半ばで、〕

91コマ・1行
206

セプコシヤム。

[?]

〔鋭い音がした。〕

91コマ・1行
207

ヲマイシヨカタ。

寝床の上にいた、

91コマ・2行
208

カモイネアング。

カムイであるその者の、

91コマ・2行
209

ベンレグチ。

喉首を、

91コマ・2行
210

アンタメツ゚イ。

私は刀で斬った。

91コマ・3行
211

シロシマモイレ。

〔倒れて動かなくなった。〕

91コマ・3行
212

ユプケ。

強い風に、

91コマ・4行
213

アンコノイ。

[?]

〔私は巻かれ、〕

91コマ・4行
214

リコプイチヤ。

天窓の前で、

91コマ・4行
215

コヤヽアチム。

[?]

〔息を詰めた。〕

91コマ・5行
216

アヤウヱンヌカル。

[?]

〔私は苦しい思いをして〕、

91コマ・5行

11刀の光と倒れる相手

217

ヲカダムゴテ。

[ ?]

〔刀を構え、〕

91コマ・5行
218

アネタメドツカ。

[?]

〔私は刀を突き出した。〕

91コマ・6行
219

セフコシヤム。

[?]

〔鋭い音がした。〕

91コマ・6行
220

タシヤタメキレ。

[ ?]

〔相手の返す刀が、〕

91コマ・6行
221

ヌイラヨチネ。

炎の虹のように、

91コマ・7行
222

イヤラカムカ。

[?]

〔私を覆った。〕

91コマ・7行
223

アヤイウヱンヌガル。

[?]

〔私は苦しい思いをして〕、

91コマ・8行
224

ヲマイシヨカタ。

寝床の上で、

91コマ・8行
225

チヤノウラヽマウネ。

[ ?]

〔薄い霧の風のように、〕

92コマ・1行
226

アンツ゚イコシヤヌ。

[?]

〔私はすばやく斬った。〕

92コマ・1行
227

クンネシヨシヤムメ。

[ -?]

〔暗い壁際に、〕

92コマ・2行
228

チカフレウセレ。

[?]

〔鳥をとまらせた、〕

92コマ・2行
229

アイシコバヤラ。

かのように、

92コマ・3行
230

シタフカヘカ。

肩の上で、

92コマ・3行
231

チカフヲ。

[ ?]

〔鳥の尾をつかんだ。〕

92コマ・3行
232

アンコシキル。

私はそちらを振り向き、

92コマ・4行
233

アニンガラクシユ。

[ ?]

〔私がそちらを見ると、〕

92コマ・4行
234

センラムゴラ。

先ほどのまま、

92コマ・5行
235

ヲマイシヨガタ。

寝床の上にいた、

92コマ・5行
236

カムイネアング。

カムイであるその者の、

92コマ・6行
237

ツマム。

胴の真ん中を、

92コマ・6行
238

アネツ゚イカ。

[?]

〔私は切った。〕

92コマ・6行
239

モコルベホツケ。

眠った者が横たわる、

92コマ・7行
240

ネカンナユカ。

[ ?]

〔かのようだった。〕

92コマ・7行

12相手を外へ投げ出す

241

アネアコシンガ。

[?]

〔私は疲れ、〕

92コマ・8行
242

ネチウガンネ。

[?]

〔そうしたまま、〕

92コマ・8行
243

ケウベンラム。

その体の胸元を、

92コマ・8行
244

コアンバ。

[?]

〔私は抱え、〕

93コマ・1行
245

シヨイゴバケ。

外の方へ、

93コマ・1行
246

アシラヱ。

[?]

〔私は進み出て、〕

93コマ・1行
247

キロヽブデネ。

[?]

〔力を込めて、〕

93コマ・2行
248

アシヲトヽ。

[?]

〔並べて置いた。〕

93コマ・2行
249

ヲロワカイキ。

そこからも、

93コマ・2行
250

アウコハケ。

家の方へ、

93コマ・3行
251

アノシライハ。

私は戻り、

93コマ・3行
252

アネアヨレンカ。

[?]

〔私は喜び、〕

93コマ・3行
253

ネイレカンネ。

[?]

〔あれこれと、〕

93コマ・4行
254

ヤイノワシ。

私は考えた。

93コマ・4行
255

ネモシリウンベ。

その国の者が、

93コマ・5行
256

アンコロコタン。

私の村へ、

93コマ・5行
257

アラバシヤキネ。

全く身寄りがなくて、

93コマ・5行
258

アンキマノクシユ。

私はそういう身なので、

93コマ・6行
259

ツ゚ミアニ。

戦いによって、

93コマ・6行
260

チラメイラヽ。

[?]

〔心の底から侮るようなことを、〕

93コマ・6行
261

イヱガラカ。

私にしたので、

93コマ・7行
262

キイロキケ。

そうしたものだから、

93コマ・7行
263

アンノツ゚イ。

本当に斬って、

93コマ・7行
264

アネガラカ。

私はそうした。

93コマ・8行

13次の知らせを待つ

265

ホロワノ。

それから、

93コマ・8行
266

イネイネカ。

こんなふうに、

93コマ・8行
267

ネフチシヤシルカ。

[ ?]

〔どれほど泣いても、〕

94コマ・1行
268

チアラキンテツカ。

[?]

〔どれほど立派に、〕

94コマ・1行
269

イキコロカイキ。

そうしてはいるけれども、

94コマ・2行
270

ヘンネネータ。

[ ?]

〔どこにいても、〕

94コマ・2行
271

カイグルー。

[ ?]

〔暮らす者は、〕

94コマ・2行
272

ヘンネシロマノ。

穏やかには、

94コマ・3行
273

ヲカイケシナシヤンタ。

[ ?]

〔暮らせず、日ごとに、〕

94コマ・3行
274

ホダシノケウツ゚ム。

不安な気持ちを、

94コマ・4行
275

アヤイコレワ。

私は抱きながら、

94コマ・4行
276

ヲカヤン。

暮らしていた。

94コマ・4行

14再びチャシが揺れる

277

タンシネアニ。

[ ?]

〔そんなあるとき、〕

94コマ・5行
278

アヌンチヤシ。

私の住むチャシ、

94コマ・5行
279

チヤーシフカ。

[?]

その〔あたりには、〕

94コマ・5行
280

ケウコシヤン。

大きな音が響いた。

94コマ・6行
281

カンカムイ(十)。

[?]

カンナカムイ〔雷のカムイ〕の、

94コマ・6行
282

ツ゚ニウヱンフミ。

荒々しい音を立てて、

94コマ・6行
283

イヲシリボソ。

[?]

〔あたりを貫き、〕

94コマ・7行
284

リコフイチヤタ。

天窓のところで、

94コマ・7行
285

ツ゚カイタンメレ。

[ ?]

〔折れ曲がる光が、〕

94コマ・8行
286

イコツ゚イマ。

[-?]

〔遠くから私の方へ、〕

94コマ・8行
287

ウカイリ。

[?]

〔降りかかってきた。〕

94コマ・8行
288

アヤウヱンヌカラ。

[?]

〔私は苦しい思いをして〕、

94コマ・8行
289

タンネシヨシヤ。

[?]

暗い外の方へ、

95コマ・1行
290

アンコヤヽチム。

[?]

〔私は息を詰め、〕

95コマ・1行
291

イヨカイネ。

[ ?]

〔身構えて、〕

95コマ・2行
292

カムイタメキレ。

[ ?]

〔神の刀を振るい、〕

95コマ・2行
293

アンコトマセ。

[?]

〔力を込めて、〕

95コマ・2行
294

イワンルグンネ。

[ ?]

〔六筋に、〕

95コマ・3行
295

アヌコツイ。

[?]

〔私は切りつけた。〕

95コマ・3行
296

インガラアンコ。

見てみると、

95コマ・3行

15二人目の客の姿

297

ヲマイシヨカタ。

寝床の上に、

95コマ・4行
298

アイヌヘネワ。

[ ?]

〔人らしき者が、〕

95コマ・4行
299

アシポガイキ。

[ ?]

〔立っていた。〕

95コマ・5行
300

イヲシリガシユ。

[?]

〔地に突き立つように。〕

95コマ・5行
301

ツ゚チユツキ。

二つの明るい光があり、

95コマ・5行
302

チユツキツ゚ム。

その光の中に、

95コマ・6行
303

アヌラボガ。

[ ?]

〔私がいると、〕

95コマ・6行
304

イガンネ。

[?]

〔その者が私に襲いかかり、〕

95コマ・6行
305

イネシレカタ。

[?]

〔引き倒した。〕

95コマ・7行
306

カネコソテ。

金の小袖を、

95コマ・7行
307

ツ゚イベレベ。

二枚も三枚も、

95コマ・7行
308

アルボゲチユ。

[?]

〔重ねて身にまとい、〕

95コマ・8行
309

ヤラギボキタ。

〔脇の下に〕、

95コマ・8行
310

クンネシヤヤ。

黒い鞘に、

95コマ・8行
311

イウネイムシ。

[?]

〔収まった刀を、〕

96コマ・1行
312

ヤイツ゚ンバヲ。

[-?]

〔鍔のところで、〕

96コマ・1行
313

ビウヱガンネ。

[?]

〔刀を押さえたまま、〕

96コマ・1行
314

イムシニネツガシ。

[ ?]

〔刀の柄の上には、〕

96コマ・2行
315

ネプカムイノカ。

何かのカムイをかたどったものが、

96コマ・2行
316

チアライデツカ。

[?]

〔美しく描かれていた。〕

96コマ・3行
317

キムイガシケタ。

頭の頂に、

96コマ・3行
318

レタラバイガシヤ。

白い笠を、

96コマ・4行
319

ヤイケムイガ。

[?]

〔頭の上に、〕

96コマ・4行
320

ラレカンネ。

[?]

〔押さえたまま、〕

96コマ・4行
321

ヲシマガワ。

[ ?]

〔後ろに、〕

96コマ・5行
322

ロシケアンベ。

立っている者を、

96コマ・5行
323

アンコシツキライ。

[?]

〔私は横目で見た。〕

96コマ・5行
324

アコンラム。

私の心は、

96コマ・6行

16新たな戦いの申し出

325

ライゴシヤン。

気が遠くなった。

96コマ・6行
326

シケアフンベ。

[?]

〔中へ入ってきた者が、〕

96コマ・6行
327

キノタツアレ。

[?]

〔刃を置き、〕

96コマ・7行
328

インカラクニ。

見るために、

96コマ・7行
329

ポンルウヱ。

若いルウェサニよ、

96コマ・7行
330

カムイケシヨラ。

[ ?]

〔カムイの子孫から、〕

96コマ・8行
331

シユツ゚イシヤムノ。

[ ?]

〔理由もなく、〕

96コマ・8行
332

カムイツ゚ミ。

カムイの戦いが、

97コマ・1行
333

イコヤングニ。

[ ?]

〔私に降りかかろうとして、〕

97コマ・1行
334

ウラヽモシリ。

ウララモシリで、

97コマ・1行
335

キフセヌイゲシ。

[ ?]

〔助けようと、〕

97コマ・2行
336

イヰガラカラ。

[ ?]

〔私にそうしようと、〕

97コマ・2行
337

イキヤコロカ。

そうしたけれど、

97コマ・3行
338

バナツイセウラ。

[ ?]

〔パナトゥイセのウラㇻという、〕

97コマ・3行
339

ブルカムイ。

霊力の優れたカムイが、

97コマ・3行
340

イゴロガ。

[ ?]

〔そうしたのだが、〕

97コマ・4行
341

イコロモシリ。

[ ?]

〔その国、〕

97コマ・4行
342

タヤウンモシリ。

[ ?]

〔このヤウンモシㇼの、〕

97コマ・4行
343

モシンラボキ。

[ ?]

〔島の下手に、〕

97コマ・5行
344

チワレワクテ。

[?]

〔住まいを定め、〕

97コマ・5行
345

イヰカラガラ。

[?]

〔そこに住むことになった。〕

97コマ・5行
346

タンベクシユ。

そのために、

97コマ・6行
347

カムイツ゚ミ。

カムイの戦いが、

97コマ・6行
348

アネホアシ。

[?]

〔起こった。〕

97コマ・6行
349

ツ゚アツパケ。

[?]

〔戦いの〕初めから、

97コマ・6行
350

アネコユブ。

[?]

〔激しく争った。〕

97コマ・7行

17海を隔てた土地から

351

タンベクシユ。

そのために、

97コマ・7行
352

イコロコタン。

[ ?]

その村の、

97コマ・7行
353

タンルウヱシヤニ。

このルウェサニまで、

97コマ・8行
354

コアツ゚イコル。

[?]

〔海を渡ることを、〕

97コマ・8行
355

アネイガラカ。

[?]

〔私はしたのだ。〕

97コマ・8行
356

アンコロコタン。

私の村の、

98コマ・1行
357

レータフネ。

〔その名はこうである。〕

98コマ・1行
358

バイウシヤアツ゚イ。

[?]

〔いくつもの海を渡り、〕

98コマ・1行
359

アツイラボキ。

海の中で、

98コマ・2行
360

ヤイヌブンデ。

[?]

〔身を守ろうと、〕

98コマ・2行
361

アヤコロカ。

[ ?]

〔私はそうしたのだが、〕

98コマ・3行
362

ルウヱシヤニウングル。

ルウェサニの者には、

98コマ・3行
363

ツ゚ムグルカムイ。

力あるカムイでさえ、

98コマ・3行
364

ツ゚ミアニ。

戦いで、

98コマ・4行
365

アツタムシユイ。

[?]

〔刀を振るっても、〕

98コマ・4行
366

イシラボツカリーレ。

[?]

〔及ばない、〕

98コマ・4行
367

ベヽケリ。

[?]

〔という噂が、〕

98コマ・5行
368

アスワクシユ。

立ったので、

98コマ・5行
369

タネボアシ。

今まさに始まる、

98コマ・6行
370

ツ゚ミアリ。

戦いに向けて、

98コマ・6行
371

チアイコトムカ。

[?]

〔私は戦いの装いを整えることを、〕

98コマ・6行
372

アネカラカラクシユ。

したので、

98コマ・7行
373

ツアツイカ。

いくつもの海の上を、

98コマ・7行
374

チヱコヲマナン。

[?]

〔お前のもとへ〕行くことを、

98コマ・7行
375

アネカラガ。

私はした。

98コマ・8行

18挑戦への応答

376

タンベヲツタ。

そのとき、

98コマ・8行
377

イツガツシヤム。

[?]

〔私の前に、〕

98コマ・8行
378

ヲシマヤツキネ。

踏み込んでくると、

99コマ・1行
379

タンルウヱシヤニ。

このルウェサニを、

99コマ・1行
380

アネコタンコラ。

[ ?]

〔私が治めていたのだ。〕

99コマ・1行
381

ネーワガイキ。

そうであっても、

99コマ・2行
382

チコノクリ。

[?]

〔私は気が進まない、〕

99コマ・2行
383

アニヱカラガラ。

ということに、

99コマ・2行
384

キーナシコンナ。

なるだろうよ。

99コマ・3行
385

イタカンテツ。

私がそう言うと、

99コマ・3行
386

ムテムシ。

〔相手は〕身に帯びた刀の、

99コマ・4行
387

シヤンニツチカン。

[ ?]

〔突き出た柄にも、〕

99コマ・4行
388

ヲテツキライ。

[-?]

〔指を櫛のように使い、〕

99コマ・4行
389

シアリ。

[-?]

〔自分の脇の下から、〕

99コマ・5行
390

コダメタイ。

刀を抜いた。

99コマ・5行
391

カムイタメキ。

[ ?]

〔神の刀を振るい、〕

99コマ・5行
392

イヤラカムカ。

[ ?]

〔私の身に、〕

99コマ・6行
393

ホシケルイノ。

先に、

99コマ・6行
394

イツイグニ。

私を斬ろうとした。

99コマ・6行
395

カンツ゚ライラム。

[?]

〔そのとき、〕二つの心を、

99コマ・6行
396

アネコデ。

私は一つに合わせた。

99コマ・7行
397

ムツルチヤボ。

[ ?]

〔刀を帯びた、その先に、〕

99コマ・7行
398

アテツカリレ。

[?]

〔私は手を回した。〕

99コマ・7行

19刀を交える

399

アムデムシ。

[ ?]

私が身に帯びた刀の、

99コマ・8行
400

シヤンニツチカン。

[ ?]

〔突き出た柄にも、〕

99コマ・8行
401

アノデツライ。

[?]

〔私は手を走らせ、〕

99コマ・8行
402

センラムコラ。

先ほどのとおり、

100コマ・1行
403

カムイコロベ。

カムイの持ち物の、

100コマ・1行
404

ベシヤムカ。

[ ?]

〔そのそばで、〕

100コマ・1行
405

マツナダラ。

明るく輝いて、

100コマ・2行
406

タンチヤラボキ。

[ ?]

〔そのすぐそばに、〕

100コマ・2行
407

アンタムツ゚ラン。

[?]

ある刀とともに、

100コマ・2行
408

カムイネアンク。

カムイであるその者の、

100コマ・3行
409

タンルウヱトツタ。

その道の先で、

100コマ・3行
410

チヤヌラヽマウネ。

[ ?]

〔薄い霧の風のように、〕

100コマ・4行
411

シヨウムツル。

両手の間で、

100コマ・4行
412

イラツコシヤヌ。

[?]

〔ぱたりと鳴って、静まった。〕

100コマ・4行
413

ホントモタ。

真ん中に、

100コマ・5行
414

タモシマフンガ。

刀が突き入る音も、

100コマ・5行
415

セフコシヤム。

[?]

〔鋭い音がした。〕

100コマ・6行

20戦いの後の言葉

416

イヤツシヨイネ。

[ ?]

〔向かい側の座へ、〕

100コマ・6行
417

トベンラムカ。

[ ?]

〔胸の上で、〕

100コマ・6行
418

イワシヤモヲシマ。

[?]

〔その奥まで入り込み、〕

100コマ・7行
419

マクアアシヤツ。

[ ?]

〔なんと深い傷か。〕

100コマ・7行
420

キイタカ。

[?]

〔口にした言葉は、〕

100コマ・7行
421

ヤイガンネ。

[?]

〔こうだった。〕

100コマ・8行
422

ヤンモシリカ。

北海道で、

100コマ・8行
423

ヲヤイレシケ。

[?]

〔ひとりで育った、〕

101コマ・1行
424

ポナイノシヤニ。

若いアイヌの子として、

101コマ・1行
425

チガシユレ。

[?]

〔大切に見守られて、〕

101コマ・1行
426

イヱガラガラ。

きたのだ。

101コマ・2行
427

キヽアノクシユ。

[ ?]

そのおかげで、

101コマ・2行
428

アビリガイケ。

[ ?]

〔よく育ち、〕

101コマ・3行
429

イコヲケレ。

[?]

〔すっかり大きくなった。〕

101コマ・3行
430

キプネクシユ。

そういう身なのだから、

101コマ・3行
431

タネアナキネ。

今となっては、

101コマ・4行
432

チコ。

[?]

〔自分の身を大切に、〕

101コマ・4行
433

アネガラガラガンナ。

[?]

していこう。〔そしてまた、〕

101コマ・4行
434

イタガンデ。

私がそう言うと、

101コマ・5行

21倒れた客を運び出す

435

ツ゚コブイシヤ。

[ ?]

〔刀を、〕

101コマ・5行
436

コヤヽチユ。

[?]

〔身に突き立てた。〕

101コマ・6行
437

アヤイウヱンヌカル。

[?]

〔私は苦しい思いをして〕、

101コマ・6行
438

モナツガンネ。

目が覚めたままで、

101コマ・6行
439

イロツペ。

[ ?]

〔その上に座っていた者が、〕

101コマ・7行
440

チヤツシヤヲツカレ。

[?]

〔逃げようと、〕

101コマ・7行
441

イヱガラガラ。

[?]

〔した。〕

101コマ・7行
442

ツ゚イマ。

[ ?]

〔そう遠くないところで、〕

101コマ・8行
443

アニコヌヤツ。

[ ?]

〔私がその話を聞くと、〕

101コマ・8行
444

セテツカヨネ。

[ ?]

〔起き上がることも、〕

102コマ・1行
445

アニヨグニ。

[?]

〔私は驚き、〕

102コマ・1行
446

アヤイノイケシテ。

[?]

〔何もできなくなった。〕

102コマ・1行
447

リコシマクリ。

飛び上がった姿に、

102コマ・2行
448

アネタンカリレ。

[?]

〔私は刀を回し、〕

102コマ・2行
449

アネタメムコ。

[?]

〔私の刀身の半ばで、〕

102コマ・3行
450

セプコシヤヌ。

[?]

〔鋭い音がした。〕

102コマ・3行
451

イヤツシコヘネ。

[ ?]

〔生きていた者も、〕

102コマ・3行
452

チト゚イゲヌカ。

[ ?]

〔私は斬って血まみれにした。〕

102コマ・4行
453

イウシヤモヲシマ。

[ ?]

〔そばに寄って来て、〕

102コマ・4行
454

アネシンガ。

[?]

〔私は気合を入れ、〕

102コマ・5行
455

イチウカネ。

〔刺さったまま、〕

102コマ・5行
456

チツ゚イバケウヱ。

私が切り刻んだ遺体を、

102コマ・5行
457

アヌコアンバ。

私は抱えて、

102コマ・6行
458

ソイコバケ。

外の方へ、

102コマ・6行
459

アノシライ。

私はそこへ出た。

102コマ・6行

22訪れる者のない日々

460

アコロコタン。

私の村の、

102コマ・7行
461

シヤンジハシカシ。

[ ?]

〔下る流れの上を、〕

102コマ・7行
462

アンコシユヱ。

[-?]

〔私は下って、〕

102コマ・7行
463

ホトボガイキ。

[?]

〔戻って来た。〕

102コマ・8行
464

アヌンチヤシ。

私の住むチャシの、

102コマ・8行
465

アウゴバケ。

家の中へ、

103コマ・1行
466

アノシラヱ。

私は入った。

103コマ・1行
467

タヽランバ。

[ ?]

〔削ったヤナギを、〕

103コマ・1行
468

アカイアンコロカ。

[ ?]

〔私は折ったのだが、〕

103コマ・1行
469

ネーネガイキ。

どこでも、

103コマ・2行
470

ネバシコルゲセ。

[ ?]

〔どんな酒の残りも、〕

103コマ・2行
471

チアラギシデツカ。

[?]

〔立派に整え、〕

103コマ・3行
472

ヲカイアナイネ。

暮らしているうちに、

103コマ・3行

23女性の来訪

473

タンシネト。

ある日のこと、

103コマ・4行
474

チヱシヤムガリ。

[ ?]

〔家のそばへ、〕

103コマ・4行
475

カムイネワ。

[ ?]

〔カムイが、〕

103コマ・4行
476

イツコドンノ。

来たようだった。

103コマ・5行
477

カーニポーレフン。

[ ?]

〔金属の響きを、〕

103コマ・5行
478

シツラレ。

伴って、

103コマ・5行
479

アバコバケ。

戸口の方へ、

103コマ・6行
480

ヤイツ゚イバレ。

近付いて来て、

103コマ・6行
481

アウコバケ。

家の中へ、

103コマ・6行
482

ヲシライ。

そこへ入ってきた。

103コマ・6行
483

アニヱカンホ。

[-?]

〔私はその人を出迎え、〕

103コマ・7行
484

シツチウバレ。

[?]

〔迎え入れた。〕

103コマ・7行
485

インガラアングシユ。

私が見ると、

103コマ・7行
486

タンベヘタ。

[ ?]

〔その者は、〕

103コマ・8行
487

メノコネヤ。

女性だったのだ。

103コマ・8行
488

ナンニゲプカ。

顔の輝きも、

103コマ・8行
489

タヘネ。

[ ?]

〔空高い太陽のように、〕

104コマ・1行
490

マツナタラ。

明るく輝いて、

104コマ・1行
491

ラツチユタラ。

ゆっくりと、

104コマ・1行
492

アヘツ゚イシヤム。

炉のそばへ、

104コマ・2行
493

ヲシライバ。

そこへ進み、

104コマ・2行
494

ウルガイガンネ。

しばらく、

104コマ・2行
495

ヲカイアンゴ。

私がそうしていると、

104コマ・3行

24食事を用意する

496

ホブンバイケ。

〔女性が〕立ち上がると、

104コマ・3行
497

アノイベシユ。

[ ?]

〔私たちの食事用の鍋を、〕

104コマ・4行
498

ツ゚ヘイクベ。

[ ?]

〔結んで支えるものを、〕

104コマ・4行
499

カラバレホ。

[ ?]

〔用意して、〕

104コマ・4行
500

ヲツペツ゚イガ。

[ ?]

〔吊り鉤の上で、〕

104コマ・4行
501

イシユイバカ。

[?]

〔煮炊きもして、〕

104コマ・5行
502

ヒリカシユケ。

よく料理をし、

104コマ・5行
503

コシモイワ。

[?]

〔食事の支度をして、〕

104コマ・5行
504

シユヤプテイケ。

[ ?]

〔鍋を火から下ろすと、〕

104コマ・6行
505

ヒリカイメツ。

よい食べ物を分けて、

104コマ・6行
506

イコボンバ。

私に食事を差し出した。

104コマ・7行
507

ツイガシケ。

そうしながら、

104コマ・7行
508

イタコマレ。

言葉を発した。

104コマ・7行
509

ブツ゚ンタ。

[?]

〔サンプッで、〕

104コマ・7行
510

ユイカウヱ。

[ ?]

〔私が託された言づては、〕

104コマ・8行
511

イネヲカイ。

こういうことだった。

104コマ・8行

25女性の申し出

512

タネアナキネ。

今は、

104コマ・8行
513

アツ゚イバイネ。

海の上手とも、

105コマ・1行
514

アツイゲセネ。

海の下手とも、

105コマ・1行
515

アンコヤイトバレ。

[-?]

〔気兼ねなく、〕

105コマ・2行
516

イシヤムグホツ。

[?]

〔交易をしようと、〕

105コマ・2行
517

アンラムクシユ。

私は思ったので、

105コマ・2行
518

ルヱシヤヌング。

ルウェサニの人の、

105コマ・3行
519

キレトコ。

膝元へ、

105コマ・3行
520

アンツ゚レシ。

私の妹を、

105コマ・3行
521

アノライナ。

送り出すのだ。

105コマ・4行
522

タプネアナツ。

このことについては、

105コマ・4行
523

シモシリバ。

[ ?]

〔本島の上手と、〕

105コマ・4行
524

イチンケウシヤンケ。

[?]

〔親戚になる、〕

105コマ・5行
525

ケハネキネ。

[ ?]

〔ことになるなら、〕

105コマ・5行
526

ピリカグシタバン。

[ ?]

〔幸いだ。〕

105コマ・5行
527

アリアイシヨンク。

という知らせを〔伝え、〕

105コマ・6行
528

イメツ゚クイカ。

[ ?]

〔宴の酒を、〕

105コマ・6行
529

ヲマレカンネ。

注いで、

105コマ・7行
530

イコイブニ。

私に差し出し、

105コマ・7行

26穏やかな結末

531

セベライメツ。

[ ?]

〔川上へ食べ物を分け、〕

105コマ・7行
532

アンクシウムシカ。

[?]

〔私は使者を送り、〕

105コマ・8行
533

ホロワノ。

それから、

105コマ・8行
534

シヤンブツンマ。

サンプッの女性を、

106コマ・1行
535

シヲゲシヨロ。

自分の下座へ、

106コマ・1行
536

アンカリレ。

〔そこに座らせた。〕

106コマ・1行
537

キコロカイキ。

そうしていたけれど、

106コマ・2行
538

ネーネカイキ。

どこからも、

106コマ・2行
539

ネフトリヲロシベカ。

〔何の風の便りも、〕

106コマ・2行
540

イシヤムノボ。

ないまま、

106コマ・3行
541

シラヌワヲカイアン終

そのまま暮らしていた。終わり。

106コマ・3行

題名とジャンル

題名の「浄瑠璃」は、アイヌの語りを説明する呼び名。本文にはカムイたちの戦いが描かれ、叙事詩とみられる。この題名だけでは、日本の人形浄瑠璃が伝わったことを示す証拠にはならない。

表記と読み方

原本には、ネとヰの異体字が使われている。翻刻・コピー・ダウンロードはいずれも片仮名のネ・ヰを用いる。ネの字形は専用書体で再現している。大書きの「ツ」や「ツ゚」、繰り返し符号は原文どおり。点線のある文字にポインターを重ねると、ママ注や読みの説明が現れる。クリックやタップで詳しい注と翻刻の比較を開ける。語末の子音、母音の有無、語の区切り、人称には複数の読み方がある。

アナツとanak(第16・522句)

アナツはanak「は」を表す。末尾のツが語末子音kに当たり、話題を示す助詞になる(丹菊2021、第17・527行;田村1996、anak項)。第7・431・512句のアナキネは、同じ働きのanakne。「アナツ=anak」はすきえんてぃあ(@cicada3301_kig)も指摘している。参照 ↗

ツで書かれる語末のk

この本文では、語末のkをツで書く例が多い。アナツanakのほか、テツtek「手」(第59句)、イメツimek「食べ物を分け与える」(第505・531句)がある。語中のkには、アナキネanakneのようにキも使われる(丹菊2021、第17・21行注)。ただし、第145句のイコアナツカはi=koan yakkaと分かれ、ツはyakkaの重子音を表す。参照 ↗

モカイとツ゚カイシケ(第43・60句)

モカイはカモイ、ツ゚カイシケはツ゚イカシケと文字の順序を入れ替えると読める。前者には、にかほ本のカムイという表記がある。後者は第173句ツイカシケ、第507句ツイガシケと対応する(丹菊2021、第45・62行注)。いずれも、ほかの写本や本文中の繰り返しを手がかりにした読みである。参照 ↗

刀に手をかけて話す(第58–61句)

tannep kasi「刀の上に」、tekrarire「手でしっかりつかむ」、tuykasike「そうしながら」、itakomare「言葉を発する」と続く。田村(1996、tekrarire項)には、杖に手をかけるkuwa kurkasi / tekrarireという並行例がある。第507・508句もtuykasike / itakomareと続き、動作をしながら話し始める。参照 ↗

ノシツとsinot(第14句)

ノシツは、sinot「遊ぶ」を表すシノツのシとノが入れ替わった形か。傍訳の「戯声」も「遊ぶ音」という意味に合う。丹菊(2021:34–35、第15行)は*nosit humi anと読み、sinotの音韻転倒を想定する。ここではsinot humi anと読むが、発音の段階で音が入れ替わったのか、書き記す際に文字が入れ替わったのかは不明。参照 ↗

sinot humi anの構造(第14句)

sinot「遊ぶ」は一項動詞で、主語は前句のカンナカムイ。humiは前の動作を名詞化し、その音や気配を表す。humi anには「~のようだ」という用法もある(田村1996、humi項)が、ここでは傍訳の「戯声」「有」に沿い、sinot humi「遊ぶ音」をan「ある」の主語とみて、「遊ぶ音がしていた」と読む。第39句のhumi as「音が生じる」も比較になる。参照 ↗

音位転倒の比較例(第335・446句)

丹菊(2021、第340・451行注)は、第335句のヌイゲシ、第446句のノイケシテをnuykesと読み、niwkes「~をしきれない」の音位転倒とみる。第340行注には宗谷方言のnuykesを挙げる。語内の音の順序の違いが、方言の違いに当たる例である。 第335句のkip niwkesは「命を救う」という慣用句として田村辞典にも載る。第446句では、niwkes「しようとしてもできない」の意味で読む。参照 ↗

語り手と発言者

客の発言中の「私」は、その客自身を指す。発言の区切りがはっきりしない箇所では、誰の親族なのか、誰の行動なのかも判断しにくい。

参考となる研究

丹菊逸治(2021)は、この物語を「ルウェサニウンクㇽ叙事詩」として取り上げ、詩連と押韻を論じ、推定される読みと暫定的な訳を示している。本ページの句番号は原文の句点ごとに付けているため、同書の詩行番号とは異なる。参照 ↗

ramkopas・ramkopaste・ramkopaste-pの語源説(第70句)

まくぽり(@mkpoli、2026年9月10日)は、*ramkopas「心とともに走る→頼りになる?」から、ramkopaste「~を頼りにする」、ramkopaste-p「頼れるもの」へと意味がつながるという説を提案した。*ramkopasはこの説で想定する語幹。第70句をi=u-ramkopas-teと分けたときのu-と-teの働きは、下の注「第70句の分節と結合価」を参照。参照 ↗

ramkopaste「頼りにする」の用例

北海道教育委員会『ユーカラシリーズ42』第78行のramkobashteには、ram・ko・pas・te「心・に向かって・走る・させる」という分析と「頼りにしていた」という訳がある。第70句のuramkopasteをu-「互いに」+ramkopasteと分ければ、「互いに頼る」と読める。参照 ↗

ramkopaste-pと刀の呼び名

富田(2021)はramkopastep「刀」をram-ko-paste-pと分ける。『シノッチャ オランナイの曲』第1254行にもa-ramkobashte pがあり、「わが太刀を」と訳されている。末尾のpは「もの」を表す名詞化辞。まくぽりの語源説では、ramkopaste-pを「頼れるもの」と解する。第70句はpの付かない動詞の形。参照 ↗

uramkopaste「団結する」(第70句)

『石狩川のアイヌ語 中級編』38頁に、uramkopaste=an「私たちが団結する」という用例がある。=anは自動詞に付く主語の人称接辞なので、このuramkopasteは一項動詞。第70句の訳「力を合わせて」は、この語義と丹菊(2018:207)の訳による。以下の[u-ram]-ko-pas-teという分節案では二項動詞となり、石狩方言の用例とは項数が合わない。参照 ↗

第70句の分節と結合価

i=[u-ram]-ko-pas-teという分節では、項数は次のように変わる。pas「走る」は一項動詞。ko-を付けたko-pas「~へ走る」は、走る者と行き先の二項を取る(田村1996、pas項;富田2021、kopas項)。行き先に当たる[u-ram]「互いの心」を抱合すると、走る者だけが残る。さらに使役の-teが付けば、走らせる者と走らされる者の二項になる。結合価は1→2→1→2。i=は四人称目的格で、走らされる側を指すと読める。この分節での意味は「互いの心へ走らせる」。「団結する」との意味のつながりや、誰が誰を走らせるのかは分からない。参照 ↗

u-ram「互いの心」と準所有相互

u-itak-nu「互いの言葉を聞く・同意する」は、[u-itak]「互いの言葉」をnu「聞く」に抱合した形(田村1996:808)。u-はitakの所有者を表す。名詞が目的語の位置を占めることで、動詞の項数は二つから一つになる。u-による項数の減少を別に数える必要はない。u-oruspe-nu「互いの話を聞く」、u-tek-kisma「互いの手をつかむ」も同じ準所有相互の例(Bugaeva・Kobayashi2022:525、§4.2.1)。第70句のu-ramも「互いの心」という名詞のまとまりとして読める。参照 ↗

動詞に付くu-との比較(第70句)

u-をramkopaste「~を頼りにする」に付く相互接辞とみれば、二項から一項になる。u-と-teが組になって共同動作を表すu-[*ramkopas]-teという分節もある。こちらは項数を変えないので、*ramkopasが一項なら全体も一項(Bugaeva・Kobayashi2022、§4.3.2)。どちらもu-が動詞に働く読みで、ramの所有者を示す準所有相互とは分節が異なる。参照 ↗

i=を主語と読む案(第70・192句)

丹菊(2021、第196行注)は第192句を*i=moyre yakka「私は遅くなったが」と読み、i=について「主格か」と記す。moyre「遅い」は一項動詞なので、i=を主語とみる読みである。第70句も一項のuramkopasteと読むなら、このi=と比べられる。[u-ram]-ko-pas-teという二項の分節では、通常の目的格i=として読める。第52・56句ではi=を名詞の所有者と解し、久保寺の記述を引く(同書第54・58行注)。参照 ↗

「イウ」を含む句の比較

「イウ」は第70・128・223・304・311・358・437・453句の8か所にある。第128句のカモイウタレではkamuyとutarの境目、第223・437句のアヤイウヱンヌガル/ヌカルでは、yaywennukarと読むならyayの末尾とwenの語頭に当たる。丹菊(2021、第309・316行)は、第304句のイウヱ/ガンネをi=raye kanneまたはi=wenkar ne、第311句のイウネイムシをi un emusと読む。第358句のバイウシヤアツ゚イはpaye usa atuyと分ける案があるが、payeの複数性と前後のつながりが不確か。第453句のイウシヤモヲシマはi-usama osma「そばに入る」と仮に読む。これら7句には、第70句と同じi=u-と読める例はない。参照 ↗

第70句の先行訳

丹菊(2018:207)はiurankopasiteを「力を合わせて」と訳す。丹菊(2021:38–39)ではi=urankopasteと分け、Batchelor(1905:539)のUramkopashte「選抜する」から「そこを選んで(?)」と訳している。前句を島の先や小山と読むことにつながる解釈である。また、rankopasteのnは、kの前でmがnに変わる方言形と説明する。参照 ↗

客の名乗り(第62–104句)

ルウェサニの者への呼びかけに続き、身寄りのなさ、遠い国、刀、戦いの噂が語られる。第88–93句では、自分の国を隠すことを好まないと述べ、ウララモシリと名乗る。第94–96句は、相手と同じく身寄りがないという意味か。第102–104句はルウェサニへの到着を述べた部分とみられる。参照 ↗

apa-sak「身寄りがない」(第64・95・257句)

二項動詞sak「~を欠く」が目的語のapa「親類」を取り込むと、一項動詞apasakになる。yay-apa-sakのyay-は「自分の親類」の所有者を表すので、さらに項が減ることはない。ar-apa-sakのar-は程度を強め、末尾の-peはその状態にある者を指す。田村(1996)のapa・sak・ar-項、丹菊(2021、第66・98・261行)参照。参照 ↗

岩山と降りてくる刀(第68–74句)

第69句をiwa nere waと読む場合、nereは「~を~にする」という使役形。その対象が前句のmosir pakeなら、「国の端を岩山にして」と読める。第73・74句のoran「~に降りる」は岩山の上を行き先とし、cimutpe「刀」を修飾する。一項動詞ranにo-が行き先を加え、二項動詞になる。第72句にも[i=ka] oran「その上に降りる」を想定する案がある(丹菊2021、第74行)。こちらはコ→カ、タ→ラという二か所の読み替えを伴う。参照 ↗

戦いを仕掛けられる相手(第81句)

一項動詞hopuni「立ち上がる」に、ko-「~に対して」が相手を加えると、二項動詞kohopuniになる。kamuy tumi i=kohopuniでは「戦い」が主語で、i=は戦いを仕掛けられる相手を表す。この目的語のある構造が、一項動詞uramkopasteを含む第70句との違いである。参照 ↗

「自分の国を隠す」の抱合形(第89句)

yaymosiresinaと読む場合、esina「~を隠す」が目的語のyay-mosir「自分の国」を取り込み、結合価は2−1=1となる。残る主語は隠す人。yay-は名詞mosirの所有者を示すため、ここでさらに項が減ることはない。第88句のp「こと」がこの内容を受け、第90句のneへ続く。鍋沢元蔵ノートのyaykotanka esinaも、自分の土地を隠すという同種の表現である(遠藤2016、Nabesawa-1第1173・1174行)。参照 ↗

刀を振り下ろすci-tam-oma-re(第98–100句)

omare「~を~に入れる」は、入れさせる人・入るもの・入る場所の三項を取る。tam「刀」を抱合すると、入れるものの項が埋まって二項になる。これをci-の中相動名詞にすれば、次句an=ekarkarで行為者を示すことができる(田村1996、ci-項③)。第98句i=kurkasikeのi=を敬称「あなたの」と読む案では、客が相手の身に刀を振り下ろすことをいう。ci-を独立した動詞の中相化とする分析なら、動作主の項もなくなって場所の一項が残るが、後続のekarkarとの関係は別に説明する必要がある。参照 ↗

刀で斬るtam-e-tuye(第210句)

tametuye「刀で斬る」はtam「刀」+e-「~を使って」+tuye「切る」(富田2021、tametuye項)。tuyeの二項は切る人と切られるもの。e-が道具を加えて三項になり、その道具をtamとして抱合すると二項に戻る。結合価は2→3→2で、an=は切る人を示す。直前のpenrekuci「喉首」が切られるものに当たる。ツ゚イのイはyeと読む(丹菊2021、第214行)。参照 ↗

セプコシヤムと刀の音

第205・206句と第449・450句は、アネタメムコに刀の音の表現が続く。黒川てしめの「ルパイェユカㇻ」(22-7、PDF14頁)にはa=tametoko serkosanu「私の刀の前でズバッと音がした」があり、同じ語りの15・17頁でも繰り返される。田村(1996、e-項)には、名詞にe-を付けたa=ekisarsutu / mawkururu「私の耳元で風がピューピュー鳴る」がある。この構文と比べれば、an=e-tam-emkoを「私の刀身の半ばで」と読める。ただし、田村はan=について、他動詞に付く形で、名詞に付く例は未出としており、a=とan=を同じように扱えるかが問題になる。丹菊(2021、第209・210・454・455行)のように二句を複合動詞として読む案では、e-に対する目的語とtam-emkoの役割を確かめる必要がある。比較例のserkosanuは「音がする」という自動詞なので、刀を鳴らす人をそのまま主語とする訳には根拠が足りない。第219・415句にも同じ音の表現がある。フ・プとrの違いが残る一方、第450句のシヤヌは、ほかの三句の末尾ムをnuと読む手がかりになる。参照 ↗

炎の虹と鳥の比喩(第221・225–231句)

nuy rayoci「炎の虹」は返す刀の動き、can urar maw「薄い霧の風」は続く斬撃に添えられる。鳥の描写にはsikopayar「まるで~のようだ」があり、壁際に鳥をとまらせたり、その尾をつかんだりする姿を比喩として読める(丹菊2021、第225・229–235行)。鳥を刀や手に見立てた描写か。参照 ↗

同じ表記のイヤラカムカ(第222・392句)

第222句はi=ar-kamu-ka「私をすっかり覆う」という動詞、第392句はi=ar-kam ka「私の身の上」という名詞句に読む案がある(丹菊2021、第226・397行)。前者は炎の虹の比喩に続き、後者は「私を斬ろうとする」の前に置かれる。kamu「かぶさる」とkam「肉」の違いにより、同じカナから異なる構造が考えられる。参照 ↗

a=yaywennukarとa=eyaywennukar(第216・223・288・437句)

アヤ(イ)ウヱンヌカルには、a=yaywennukarという読みが考えられる。上田トシの1996年の口演を収めた大谷(2005:130)に、a=yaywennukar siri anという表記がある。ネコを打たれた飼い主の訴えで、対訳は「ひどいことをするのか」。川上まつ子の1987年の語りにもene a=yaywennukar somo a=ki… peという形がある。ただし、いずれもsiri anやkiを伴うため、a=を単独の自動詞の主語とする用例か、動作名に付く形かはなお検討を要する。丹菊(2021、第220行注)のa=eyaywennukarは、e-を補い、苦しみの対象を取る二項動詞とした別案である。参照 ↗

アネヲベツチヤ(第24–26句)

第24–26句はhenne nep ka / an=eopetca / okay=an aykeと仮に分け、「何事もなく暮らしていたところ」と読む。「故」を出来事や差し障りと取った文脈からの推定で、eopetcaの語義として確認されたものではない。原画像の「故」はアネヲの脇にあり、ベツチヤまで含む訳かは判然としない。参照 ↗

Aneopetchaという辞書見出し(第25句)

Batchelor(1905・1938)はAneopetchaを川口の狭い川として載せる(1938:35)。本文とほぼ同じ語形だが、何もない状態で暮らしていたという前後にはつながりにくい。田村(1996)のepekaには「~に当たる」と「~のために」の語義があり、後者は傍訳「故」とも比べられる。ただしepekaからヲベツチヤの音形を説明するには隔たりがある。参照 ↗

先祖と血筋(第134・151・154・524句)

cinkewは樺太方言で親や親元をいう。第134・154句では、神や人の血筋を表すと読む。sinriciはsinritの所属形で、先祖から子孫までを含む一族をいう(田村1996、sinrit項)。第524句のcinkew-sanke「親戚になる」は、この語義と妹の婚姻という文脈からの分節案(丹菊2021、第138・158・529行)。参照 ↗

美しさをいう四つの語形(第45・268・316・471句)

ciarkestekka・ciarkintekka・ciaritekka・ciarkistekkaと読める四つの形が、人の姿、暮らし、刀の柄、供え物を描く箇所に現れる。Batchelor(1938:72)のChiara「美しい」と、丹菊(2021、第47行注)が引く久保寺のchiar「立派な・美しく飾った」が比較になる。一方、同注はci=arkes-tek-kaとも分ける。tekは短い動作、-kaは他動詞を作る接尾辞とすれば、残る語幹はarkesとなる(田村1996、tek・-ka項)。第268句のンをシの誤写、第316句をkの写し落としとみる可能性もあるが、四形を一語にそろえるには複数の修正が要る。にかほ本の第316句には末尾シの書き添えもあり、丹菊はka/kasi「上」という別の語の区切りを挙げる。参照 ↗

ルウェサニの強さの噂(第362–385句)

第362–368句は、カムイでさえルウェサニの者に刀で及ばないという噂と読む。続く句では、その噂を聞いた客が戦いに向けて身支度を整え、いくつもの海を渡ったと語る。第380句では、ルウェサニの主が自ら名乗る。第382句のnukuriを含む語は気が進まないことを表し、客との戦いをためらう返答か。参照 ↗

鍋と食事の支度(第497–506句)

su「鍋」に続いてtupe「結ぶ」が現れ、炉鉤を用意して煮炊きする場面と読める。第504句は、丹菊が挙げるにかほ本のシユヤプテイケに沿ってsu yapte ike「鍋を火から下ろすと」と読む。yapteには物を上げる意味と、鍋を火から下ろす意味がある(田村1996、yapte項)。配膳のkopunpaまで、食事を出す一連の動作が続く。参照 ↗

交易と婚姻の申し出(第513–527句)

海の上手・下手との交易を望む言葉に続き、ルウェサニの者へ妹を嫁がせる申し出が伝えられる。第515・516句はyayitupare「気をつける」、isam「ない」、kohok「買う・交易する」を含む一続きの表現と読む案。第523句のmosirpaも国の上手を表すが、どの地域を指すかは不明。参照 ↗

チコヤイヤムと自分をいたわる言葉(第432・433句)

yayeyamはyay-「自分」とeyam「大事にする」から成る一項動詞。『石狩川のアイヌ語 中級編』28頁にもYayeyam ani「身体を大事にしなさいよ」という用例がある。第432句ではヤイヤムをyay-eyamに当て、成長を振り返った語り手が自分の身を大切にすると語る場面に読む。参照 ↗

ci-ko-yay-eyamの語構成(第432句)

eyam「~を大事にする」は二項動詞。yay-が大事にする側とされる側を同一にすると、yayeyam「自愛する」は一項になる。ko-がきっかけや相手を加えれば二項に戻る。この形に付くci-を中相動名詞の接辞とみると、後続のan=ekarkarが行為者を示し、全体で自分を大切にする行為を述べる。ci-を独立した動詞の中相化とみる場合には二項から一項に減るが、動名詞とekarkarから成る構文の項数を、その計算だけで決めることはできない。第432句のko-が何を指すかは、育った身や境遇についての前の言葉から読むことになる。参照 ↗

ci-の表現を受けるekarkar(第425・426・432・433句)

田村(1996、ci-項③)は、ci-で始まる動名詞にekarkar「する」の人称形が続く韻文の構文を挙げる。鍋沢元蔵のNabesawa-3第1–4行にも、祖父が語り手を大切に育てたことをciararesu / i=ekarkarと述べる例がある(遠藤2016)。この構文では、人称を示す接辞は後続のekarkarに付く。第425・426句は「見守られていた」、第432・433句は「自分を大切にしていく」と読む候補になる。参照 ↗

天窓の光と襲いかかる者(第285–305句)

第285句のmeriは、Batchelorの辞書で閃光を表す語。二筋の光が折れ曲がって語り手へ迫り、刀で切りつけると、寝床の上に人の姿が見える場面と読む。第304句はraye「殺す」、第305句はsirekatta「地面に引き倒す」を含む試読で、語り手が襲われる描写につながる(丹菊2021、第290–310行)。参照 ↗

カムイケシヨラの二つの読み(第330句)

kamuy kes ora「神の子孫から」は、kes「末」を血筋に当てる読み。第134・151・154句にも神や人の血筋が現れる。一方、kesorapは辞書に載る伝説の鳥で、田村(1996)にはkesorap kamuyという組み合わせもある。カムイケシヨラをこの鳥の名とみるなら、神と鳥の名の順序や、語末pが書かれていない点が問題になる(丹菊2021、第335行)。参照 ↗

湾とチャシに現れるカムイ(第9・27–43句)

第9句のusは湾を表す語。第27・278句のan=un casiは「私がいるチャシ」で、unが取る場所の目的語をcasiが示す。来訪の場面では、ケウコシヤヌという大きな物音に続き、刀や火の光に似た姿が現れる。第37・38句は、その者が座り込む音として読む(丹菊2021、第10・29–45行;田村1996、un項;Batchelor1938、Ush・Keukosanu項)。参照 ↗

ニケプとnipek(第33・488句)

服部(1964)の「光」欄では、宗谷の形はnikép、沙流の形はnipékで、pとkの順序が異なる。原文のニケプは宗谷の形に一致する。Batchelor(1938)もNikepとNipekを同義語として載せる。第33句の火の光と第488句の顔の輝きには、ともにnikepを用いる。参照 ↗

村や国を隠さず名乗る(第88–93句)

鍋沢元蔵のNabesawa-1第1172–1177行には、a=oyanene p yaykotanka esina ne kusuと述べてから村名を明かす場面がある(遠藤2016、107頁)。自分の土地を隠すことを嫌い、その名を相手に告げる順序が第88–93句と重なる。Nabesawa-3第265–272行にも同じ型の名乗りがある(210–211頁)。oyaneneはここでは「好まない」、第40句では「いぶかる」と読む。参照 ↗

サンプッの人と女性

Sanput un kurは「サンプッの人」、Sanput un matは「サンプッの女性」。unは土地とそこに属する者を結ぶ。第106・111・140・509・534句の五か所に同じ村名が現れると読む(丹菊2021、第109・114・144・514・539行)。鍋沢元蔵のNabesawa-3第272行にもSanputという村名がある(遠藤2016、211頁)。第140句ではpuが省かれ、第509句ではシヤシをシヤンに当てる。参照 ↗

心を揺らして考える(第180・181句)

田村(1996)のyayko-tuyma siramsuyeは、長い間考えることをいう韻文の表現。同辞典の用例では前半が副詞として働き、後半のsiramsuyeに主語a=が付く。句全体は自動詞の働きをしながら、人称は他動詞型になる。日常語のyaykosiramsuye=anとは接辞の位置が異なる。第180・181句もこの表現と比べられるが、原文には後半の前にko-があり、語頭i=の役割もなお説明がつかない(丹菊2021、第184・185行)。参照 ↗

人を敬う動詞の複数形(第322・493・496句)

叙事詩では、一人の人物を敬って動詞を複数形にすることがある。Shibatani(1990:54–55)は、育ての姉一人が戸口へ来る場面のarki「来る」と、英雄一人が金のラッコ一匹を殺す場面のronnu「殺す」を例に挙げる。第322句のroski「立つ」と第496句のhopunpa「立ち上がる」も、目の前の客への敬意と読める。第493句のosiraypaには、田村(1996)に神の移動を表す用法がある。参照 ↗

アネカラカ・アネイカラカ・アニヱカラガラ

第194・264・375句のアネカラカはan=ekarkar「私がする」と読める。第383句のアニヱカラガラならan=i=ekarkarと分かれ、i=が行為を受ける相手を示す。第87・121・132・355句のアネイをこの分節に当てるには、eiとieの順の入れ替わりを考える必要がある。丹菊(2021、第90行注)は聞き違いと、当時の異なる配列の両方を挙げる。Batchelor(1938:107)のEikarakara「私のために作った」は、原文のeiという並びと受け手の意味を比較する材料になる。参照 ↗

笠を押さえる二つの場面(第47–53・306–320句)

二枚、三枚の小袖、重ね着する動作、頭上の笠という描写が繰り返される。衣を着る動作は、第49句ではanupokeciw、第308句ではarpokeciwと読む案がある(丹菊2021、第51・313行)。冒頭の音は異なるが、どちらも小袖を着重ねる場面に置かれている。笠の描写を結ぶ第53句のrarpaは、rari「押さえつける」の複数形。第320句のラレもrariと読めば、笠を頭に押さえた姿になる。参照 ↗

振り向く動作と心(第232・323–325句)

第232句のkosikiruは、向きを変えるsikiruにko-を付けた「~の方に向く」。第323句のkosikkirayは、目を表すsikとものを向けるkiruに関わる語形と考えられ、丹菊(2021、第328行注)は久保寺のshik-kiruru「横目を使う」と比較する。続くアコンラムは、田村(1996)のkonram「その心」にa=を付けた「私の心」。その心がraykosanu「気を失う」という組み立てになる。参照 ↗

炉端へ進んで食事を出す(第491–506句)

ratcitara「ゆっくりと」、ape tuysam「炉のそばへ」、osiraypa「進む」と続き、女性が炉端へ来る。やがて立ち上がって鍋を用意し、料理をして、i=kopunpa「私に食べ物を差し出した」と結ぶ。kopuni・kopunpaは、受け手・食べ物・出す人の三項を取る。受け手がi=で示され、出す人はこの場面の女性、食べ物は直前の配膳の描写から分かる。参照 ↗

宴の酒を差し出すi=koypuni(第528–530句)

イメツ゚クイカの前半をimetu「宴席で飲み残した酒」と読むと、omare「入れる」、i=koypuni「私に飲食物を差し出す」へ続く。Batchelor(1938:115・189)には女性へ分ける酒emetupと宴の残り酒imetuがある。後半kuykaの語の区切りは決まらず、丹菊(2021、第533行)はimek tuku i ka「分け前を出すことも」という別案を挙げる。koypuniは田村(1996)のko-i-puniで、puniの目的語をi-「もの」で埋め、ko-で受け手を加えた二項動詞。語頭に付くi=はその受け手を指す。第506句のkopunpaでは食べ物の項が残るため三項となる。参照 ↗

斬撃の後の二句(第418・419句)

胸の描写に続くイワシヤモヲシマとマクアアシヤツは難読箇所。丹菊(2021、第423・424行注)の案から、asam「底」とosma「入る」を含む動き、さらにaahak「浅い」を反語にした傷の深さの表現として訳す。この読みでは第418句のワ、第419句のシに説明がつかない。別案のi=kutcam osmaを取れば、第418句は声を出す場面となり、後続の発言を導く可能性もある。参照 ↗

身寄りのなさをいうapa sak(第64・95・186・257句)

織田ステノの「Moyuk」にはapa sak pe e=ne「あなたには親戚がいない」という句がある。apa「親類」を持たないという表現で、sakは欠いているものを目的語に取る。第95句のarapasakpeではar-が程度を強め、peが「者」を表す。第257句は同じarapasakにhine「~して」が続く。第64句のyayapasakにもapa-sakが含まれると読む。参照 ↗

ciapasakkaを受けるi=ekarkar(第186・187句)

川上まつ子の「ウウェペケㇾ民話20」にはciapasakka ciutarsakka a=i=ekarkarという用例がある。子どもたちを失った者が、親類も家族もなくしてしまったと嘆く場面。apa-sakを「親類がない」という一項動詞とみれば、-kaが加わったapasakkaは、人をその状態にする二項動詞となる。ci-で始まる動作名をekarkarの人称形が受ける構文は、田村(1996、ci-項③)にも説明がある。第186・187句もi=をその行為を受けた側と読み、身寄りを失った語り手の境遇を述べる。参照 ↗

hi・hine・hikeの縮約形(第26・96・139・257・277・472・511句)

名詞化辞hiは前の語と結び付き、-iや-yの形でよく現れる。第96句のネイはne-y、第139句のイタキはitak-i、第511句のヲカイはoka-yに当たる。第277句のアニもan hiの短い形aniと読める。ayne(a hine)やayke(a hike)も縮約形で、この詩では第472句と第26句に現れる(田村1996、hi・ayne・ayke項)。第257句のsak hineもsakineと続けて発音され、シヤキネに対応する(丹菊2021、第261行)。参照 ↗

気兼ねのない取引(第513–517句)

海の上手と下手を挙げた後、koyayitupare-isam-kohokという二句にまたがる動詞を読む案がある(丹菊2021、第520・521行)。koyayitupareは、川上まつ子の「ウウェペケㇾ民話16」でカムイを大切にして暮らす場面にも使われる。kohokは「相手から品物を買う」。この二語をisam「ない」がつなぐ形を、取引相手に気兼ねせずに売買する意味に取る。次のan=ramu kusu「私は思ったので」が、妹を嫁がせる申し出の理由としてこの意向を受ける。参照 ↗

知らせを届けるci-ko-asur-kor(第86・87句)

川上まつ子の「ウウェペケㇾ民話8(その1)」には、危険を知らせるため父のもとへ行くことをasurkor=anと述べる用例がある。asur「知らせ」をkor「持つ」に抱合し、一項動詞になった形と読める。第86句のko-が届け先を加えるなら二項となり、ci-で作る動作名を次句のekarkarが受ける。第87句をan=i=ekarkarと分ければ、i=は知らせを受ける語り手を示す。参照 ↗

到着先を示すcikosirepa … ekarkar(第103・104句)

ウポポイ職員ポロナイの挨拶にはcikosirepa a=un=ekarkarという表現があり、遠方から来た客に感謝を述べる。un=は訪問を受ける側「私たちに」を指す。第103・104句のi=も到着を迎える側とみて、敬意の二人称「あなたに」とする案が考えられる。ただし、挨拶の例には主語のa=もある。本文を客自身の「私はお前のもとへ来た」と読むには、a=またはan=が写し落とされたと考える必要がある。原文のi=ekarkarのままなら、到着する人は三人称となる。参照 ↗

句末に添えられるpo(第499・540句)

Batchelor(1938:396)は、poに語調を和らげる働きがあるとし、puine po oman eikapとorowa no poを例に挙げる。第499句karpare po、第540句isam no poも、末尾のpoを添え詞として読める。田村(1996)には「なおいっそう」という副詞poもある。参照 ↗

イコロコタンと所有者のi-(第52・56・105・133・341・352句)

丹菊(2021、第58行注)は、久保寺の辞書稿にあるi-yupi「彼の兄」とi-sampehe「我が心臓」を引き、イコロコタンのi=にも三人称の用法を考える。名詞に付くi-は田村(1996、i-項)にもあり、imacihi「人の妻」のように一般の所有者を表す。これらは名詞の所有者を示す例で、動詞korの主語としてのi=は丹菊の解釈である。本文ではイコロコタンが三回、イコロモシリが一回繰り返される。イをアとみればa=kor「私が持つ」に直せるが、四例とも同じ音を記していることから、i=を含む語形としても検討できる。参照 ↗

enunukaと人の待遇(第75・76句)

織田ステノ「オタスッとオタサㇺの忘れ形見」(1981)には、taa koraci an=enunuka ka somo ki「こんなに大事にされなかった」という言葉がある。田村(1996)のenunukeはe-nunukeで、そのことを理由に人を厚遇する三項動詞。この用例では待遇を受ける側の言葉として訳されている。第76句では、前句aynu tumi「人間の戦い」がe-に対応する事柄なら、戦いの相手への待遇をいう読みが考えられる。ただし、誰が誰を遇するのかはこの二句だけでは決められない。丹菊(2021、第78行)の「十分にやった」は戦いの場面からの仮訳である。参照 ↗

刀の上と夢(第174–176句)

イヱタンネフカはi=e-tannep ka、タラバはtarap aと読めば、「その刀の上で夢を見た」と続く。e-が名詞の前にある形は、田村(1996)の韻文の例a=e-tap-ka「私の肩の上で」と比べられる。一方、丹菊(2021、第178・179行)はrarpa「押しつける」、korap a「落ちた」、kur a=pa「影を見つけた」も候補に挙げる。後二者は同書の翻刻クラバに基づく読みで、本ページとにかほ本のタラバとは冒頭が異なる。続くイセラムゲシタをsirankes hi ta「夜明け近くになった時」と取れば、夢の場面から夜明けへ移る。参照 ↗

自動詞の前の人称接辞(第184・216・223・246・288・398・428・437・445句)

佐藤(2003:51、55)は、古いユーカラのa=matkosanu「私はぱっと立ち上がる」とa=soyoterke「私は外へ飛び出す」を挙げる。a=matkosanuは近現代の記録にもあり、matkosanu=anと併存する。ただし、佐藤は自動詞に他動詞型の接辞が付く現象をまれなものとし、記録時の誤解の可能性も残している。『もしほぐさ』のa=やan=で始まる句にも比較できるが、ci=payokayのci=や、i=を主語とする分析まで、この二例から確かめられるわけではない。参照 ↗

yay’osinkaと戦いの掛け声(第454句)

「カッコン鳥のかぶと」(1983)では、yay’osinkaに続いてyay’ohumseeciw wa arikiki「声をあげて頑張ってください」と相手を励ます。「高貴な兄とよこしまな姉」(1983)にもyay’osinka yay’ohumseeciw kane i=orosutkeがあり、兄が掛け声を上げて語り手を励ましている。これらを第454句の比較例とすると、刀を振るう場面の「気合を入れる」という読みが考えられる。原文のアネをan=e-と区切り、このyay’osinkaにe-が付いた形を想定する。e-を伴う全体形の用例は未確認で、アヨヲとyay-oの音の配列も異なる。両話の引用箇所は、保存された翻刻のnam-archive/yukar/02#518–519とnam-archive/yukar/05#319–321。「カッコン鳥のかぶと」の公開リンクには、あらすじと収録情報が載る。参照 ↗

出典・参考文献