Aynuitak Huskokampi Aomarepu アイヌ語古記録データベース Early Records Database of the Ainu Language

蝦夷方言藻汐草

えぞほうげん もしおぐさ · Ezo hōgen moshiogusa · 上原熊次郎・阿部長三郎 · 1792 · 辞書・語彙集 · 地名 · 集字 · 目録レコード

成立・伝本・ユーカラ研究史

『藻汐草』の成立と諸本、巻末に収められたユーカラの研究史。版本・写本の調査から、本文の翻刻、アイヌ語形の復元、翻訳までの歩みを紹介する。

研究史データ(JSON) · 参考文献

  1. 成立年(推定)

    成立

    『藻汐草』の成立

    上原熊次郎の『藻汐草』は、寛政4年(1792)に成立したと推定される。丹菊逸治(2021)は版本の刊行を文化元年(1804)としている。巻末叙事詩の語り手は不明。 Tangiku 2021, pp. 2, 30 ↧

  2. 序の年記

    刊行

    文化元年序の版本

    早稲田大学図書館所蔵の一冊本(ホ02 05038)には、文化元年(1804)の序がある。目録には上原熊治郎「通辞」・阿部長三郎「支配」と記され、寛政4年(1792)跋の『蝦夷方言』を改題したものとされる。 Waseda catalogue, catalogue record ↧

  3. 刊行年

    書誌研究

    金田一京助による著者・版本の研究

    金田一京助は「蝦夷語学の鼻祖上原熊次郎と其著述」で、著者と版本を論じた。佐藤知己(2007)が引用する金田一の議論では、一冊本末尾の跋文から上原・阿部の関与を読み取り、刷りの鮮明さなどを根拠に一冊本を初版と推定している。 Kindaichi 1913 — catalogue, 藝文 4-10 (continuation) ↧; Tomomi Satō 2007, pp. 157–159 ↧

  4. 刊行年

    カナ本文の翻刻

    山本多助・山本文利編『アイヌ・モシリ』第4号

    丹菊逸治(2021)によると、『アイヌ・モシリ』第4号は巻末叙事詩の全文を原文のカナ表記で掲載した。日本語訳は付されていない。1998年に釧路アイヌ文化懇話会が復刊した際には、90–99頁に収録された。 Tangiku 2021, p. 2, note 1 ↧

  5. 刊行年

    影印

    国書刊行会『アイヌ語資料叢書』

    国書刊行会は『アイヌ語資料叢書』の一冊として『藻汐草』の影印本を刊行した。この影印本は、のちに丹菊逸治による巻末叙事詩の校訂で底本に用いられた。 Kokushokankōkai 1972, catalogue record ↧; Tangiku 2021, p. 30 ↧

  6. 刊行年

    書誌研究

    田中聖子・佐々木利和による版本の検討

    「近世アイヌ語資料について―とくに『もしほ草』をめぐって」は、一冊本の中にも本文の異なる二種があることを指摘した。佐藤(2007)はその指摘を具体的な所蔵本と照合している。同論文は佐々木『アイヌ史の時代へ』(2013)第12章にも収録された。 Tomomi Satō 2007, pp. 167–168, §2.5 ↧; Sasaki 2013 — contents, contents, chapter 12 ↧

  7. 刊行年

    関連資料の校訂

    佐藤知己『蝦夷チヤランケ並浄瑠理言』の校訂

    佐藤知己は、彰考館旧蔵資料を写した金田一本を底本とし、東京大学南葵文庫本と対校して、三篇のカナ本文・ローマ字による推定形・逐語訳を示した。第2篇「酒盃之席亭主江祝儀之口上」は『藻汐草』の「チヤーラケ」とほぼ同内容で、佐藤は同系統の写本に由来すると推定する。第3篇「夷浄瑠理」はイシカリを舞台とする別の叙事詩である。 Tomomi Satō 2003, pp. 33–35; text 3, pp. 42–48 ↧

  8. 刊行年

    書誌研究

    佐藤知己「『藻汐草』の『一冊本』について」

    佐藤知己は函館・苫小牧に所蔵される一冊本二点を紹介し、誤刻、刷りの濃淡、虫損、諸本間の異同を検討した。一冊本では不鮮明な文字が二冊本では明瞭に読める例などを挙げ、各本の印刷状態と本文の違いを具体的に示している。 Tomomi Satō 2007, pp. 160–169 ↧

  9. 刊行年

    カナ本文の翻刻

    森家旧蔵・象潟本の影印と翻刻

    本田優子が2003年9月に象潟郷土資料館で見出した写本を、北海道大学アイヌ・先住民研究センターが影印・翻刻・解題を収めた一冊として刊行した。佐々木利和・谷本晃久が校訂・編集を担当し、本田と斎藤一樹が解題を寄せた。フトロ場所の通詞らを出した森家に伝わる写本で、刊本にない語彙・文例を含む。巻末叙事詩にも異同があり、丹菊逸治の校訂で対校に用いられた。 Mori manuscript edition 2013, catalogue record; 300 pp. ↧; Tanimoto & Sasaki 2018, pp. 41–43 ↧; Tangiku 2021, pp. 30–31 ↧

  10. 紹介記事の刊行年

    書き込み資料の所在情報

    知里真志保の自筆本の紹介

    井上高聡は北海道大学附属図書館の文庫紹介で、知里真志保が自ら筆写・製本した『蝦夷方言藻汐草』を写真とともに紹介した。赤鉛筆などによる細かな書き込みが残る。 Inoue 2014, p. 7 ↧

  11. 刊行年

    校訂・推定形・訳

    丹菊逸治による546行の校訂・推定形・暫定訳

    1972年の影印本を底本に、函館本の画像と象潟本を参照し、カナ本文・ローマ字による推定形・暫定訳を示した。「ルウェサニウンクㇽ叙事詩」は丹菊が付した仮題。2020年度の事業報告書として2021年に刊行された。 Tangiku 2021, pp. 3, 30, 34–77; colophon ↧

  12. 刊行年

    関連資料の校訂

    佐藤知己『Handbook of the Ainu Language』の付録

    第3章の付録に、佐藤知己(2003)が校訂した彰考館旧蔵本の叙事詩「夷浄瑠理」の一部を収め、カナ本文・形態素分析・英訳を示した。同章では、『藻汐草』の「チヤーラケ」に対応する祝儀の口上が、この叙事詩と同じ文書に収められていることにも触れている。 Tomomi Satō 2022, pp. 89–95, appendix ↧

  13. 刊行年

    翻訳史研究

    佐藤美希による上原の翻訳の検討

    佐藤美希は上原熊次郎の通詞としての活動と翻訳を論じた。表1では巻末叙事詩の冒頭を取り上げ、原カナ表記、上原の漢字による傍訳、丹菊逸治の推定形と日本語訳を比較している。原カナのローマ字転写と英語の逐語訳も添えられている。 Miki Sato 2023, pp. 154–156, especially table 1, p. 155 ↧

諸本の比較と文字の判読

佐藤知己(2007)は、19丁裏「肥る ビヱー」の濁点を例に、諸本の印刷状態を比較している。函館本や1972年の影印本では判読できない濁点が、神戸大学所蔵の二冊本では明瞭に残る。複数の本を照合することで、一冊では読み取れない字形を確かめられる。 Tomomi Satō 2007, pp. 168–169, §2.6 ↧

『蝦夷チヤランケ並浄瑠理言』との関係

『蝦夷チヤランケ並浄瑠理言』第2篇の祝儀の口上は、『藻汐草』の「チヤーラケ」とほぼ同じ内容を伝える。第3篇「夷浄瑠理」はイシカリを舞台とし、兄に育てられた人物が語る叙事詩である。佐藤知己(2003)は第2篇との対応を指摘し、第1篇・第3篇に関連する資料は見出していないと記している。 Tomomi Satō 2003, p. 34; pp. 42–48 ↧; Tomomi Satō 2022, pp. 89–90 ↧

翻刻・推定形・訳の範囲

巻末叙事詩は全546行からなり、原資料の和訳は冒頭51行分に付されている。『アイヌ・モシリ』第4号は全文をカナ表記で掲載した。丹菊逸治(2021)は諸本を対校し、カナ本文にローマ字による推定形と日本語の暫定訳を添えた。 Tangiku 2021, pp. 2–3, 30 ↧

参考文献・所在情報

引用の頁番号は、各文献の紙面に記されたもの。PDFのリンクから該当箇所を開ける。

  1. 阿部長三郎 · 上原熊次郎 (1804). 藻汐草. 早稲田大学図書館古典籍総合データベース、ホ02 05038
  2. 金田一京助 (1913). 蝦夷語学の鼻祖上原熊次郎と其著述(承前). 藝文(京都文学会)4-10: 67–93。国文学研究資料館論文データベース掲載書誌。
  3. 上原熊次郎 (1972). 藻汐草. 国書刊行会、アイヌ語資料叢書。NDL書誌ID 000001271767。
  4. 佐藤知己 (2003-02-28). 彰考館旧蔵アイヌ語テキスト「蝦夷チヤランケ並浄瑠理言」について. 北海道大学文学研究科紀要 109: 31–58
  5. 佐藤知己 (2007). 『藻汐草』の「一冊本」について. 北海道大学文学研究科紀要 121: 157–170
  6. 成田修一 (2010). 嘉永七年のアイヌ語について. 二松学舎大学東アジア学術総合研究所集刊 40: 25–69· 語彙表・比較・出典頁
  7. 北海道大学アイヌ・先住民研究センター古文書プロジェクト (2013-03). にかほ市象潟郷土資料館所蔵 森家旧蔵「蝦夷方言藻汐草 全」翻刻・解題. 北海道大学アイヌ・先住民研究センター、古文書プロジェクト報告書、300頁。NDL書誌ID 024530167。
  8. 佐々木利和 (2013). アイヌ史の時代へ―余瀝抄. 北海道大学出版会。第12章「近世アイヌ語資料について―とくに『もしほ草』をめぐって」(田中聖子との共著、初出1985)。
  9. 井上高聡 (2014-08-01). 先人未踏の分野で独自の境地―知里真志保文庫―. 「よりよい生活と平和のために」353号、7頁。「図書館へ行こう」第13回。
  10. 谷本晃久 · 佐々木利和 (2018-09-20). 歴史学(古文書プロジェクト報告). 『アイヌ・先住民研究センターの10年―2007~2017』北海道大学アイヌ・先住民研究センターブックレット10、39頁以降(象潟本:41–43頁)。
  11. 丹菊逸治 (2021-03-25). 18世紀アイヌ押韻文―ルウェサニウンクㇽ叙事詩その頭脚韻と不完全韻. 2020年度科学研究費補助金研究成果報告書、77頁。
  12. Tomomi Satō (2022). Major old documents of Ainu and some problems in the historical study of Ainu. In Anna Bugaeva (ed.), Handbook of the Ainu Language, chapter 3, pp. 79–98. De Gruyter Mouton.
  13. Miki Sato (2023). Ezo-tsūji (Japanese–Ainu Interpreters) in the Late Eighteenth and Early Nineteenth Centuries: The Case of Uehara Kumajirō. In Mino Saito and Miki Sato (eds.), Tsūji, Interpreters in and Around Early Modern Japan, chapter 7, pp. 141–166. Palgrave Macmillan.