Aynuitak Huskokampi Aomarepu アイヌ語古記録データベース Early Records Database of the Ainu Language

蝦夷語箋 第3コマ

国立国語研究所
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附録魯西亞をろしや言語ことば
〇天地
日ひ
クレツくれつ
月つき
メセツめせつ
星ほし
ズヘズデずへずで
雨あめ
トシカとしか
風かぜ同音 をとシスラノ
ボコダぼこだ
雲くも
ヲブラスをぶらす
水みづ
ボタぼた
火ひ
ヲコニをこに
寒かん
イツバいつば
暑しよ
シヤルコしやるこ
春はる
ヲセンをせん
夏なつ
レタれた
秋あき
レスナれすな
冬ふゆ
ジマじま
正月しやうぐわつ
ヱスハリゑすはり
二月
ヘラテリへらてり
三月
マルタまるた
四月
アブレリあぶれり

固有名・語句 →

このコマの語彙項目 (18)

見出し語形現代語形典拠
日(ひ)クレツ くれつ未解釈まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097310085487947986
語釈・考証

まくぽりは比定を保留している。

投稿の注記: грѣть /ɡrʲetʲ/「暖める」か?日は солнце

грѣть(греть)/ɡrʲetʲ/「暖める」というまくぽりの推定候補がある。日を指す名詞 солнце /ˈsont͡sə/ とは音形が離れる。太陽の働きを答えた動詞が見出しに配された可能性がある。クレは子音連続 /ɡrʲ/、末尾ツは軟音 /tʲ/ の転写として説明できる。

比較候補には三人称 греет /ˈɡrʲe(j)ɪt/「暖める」、крестъ /krʲest/「十字架」がある。前者は語中の母音連続、後者は意味と /s/ の欠落が課題。音の近さだけで佛像の項目との交換を認める根拠は得られない。

月(つき)メセツ めせつмѣсяцъ 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097308519464919164
語釈・考証

まくぽりの比定:мѣсяцъ /ˈmʲesʲɪt͡s/。

мѣсяцъ(месяц)/ˈmʲesʲɪt͡s/。「月」は天体と暦月の両方を指す。この項目は星・日と並ぶため、天体の月と解するのが自然。語末ツは破擦音 /t͡s/ に対応する。旧綴り末尾のъには独立した母音を当てない。

星(ほし)ズヘズデ ずへずでзвѣзда 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097308519464919164
語釈・考証

まくぽりの比定:звѣзда /zʲvʲeˈzda/。

投稿の注記: まあワンチャン複数の звѣзды /zʲvʲeˈzdɨ/

звѣзда(現代綴り звезда)/zʲvʲɪˈzda/「星」。まくぽりは単数形を掲げ、複数 звѣзды も候補に挙げる。現代標準語の主格複数は звёзды /ˈzvʲɵzdɨ/、属格単数は звезды /zʲvʲɪˈzdɨ/。旧綴りの字面だけでは単複・格・強勢を確定できない。語末デは звезде(与格・前置格)とも比較できるが、句の文脈を欠くため格形の同定は保留する。

ズヘは軟音を伴う子音連続 зв- の転写として理解できる。仮名に挿入された母音とロシア語の母音を一対一に対応させず、語全体の対応から読む。投稿の IPA /zʲvʲeˈzda/ は比定の際の表記として保存し、ここでは現代標準音の参考形を併記した。

雨(あめ)トシカ としかдождикъ 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097310085487947986
語釈・考証

まくぽりの比定:дождикъ /ˈdoʑːɪk/。

投稿の注記: たぶん дождь「雨」ではなく дождикъ 「小雨」

дождикъ(дождик)/ˈdoʑːɪk/「雨・小雨」。まくぽりは指小形 дождикъ を挙げる。語末カまでを含めれば属格 дождика /ˈdoʑːɪkə/ も比較できる。カを仮名転写の補助母音とみるか、実際の格語尾とみるかは、この単独項目からは決められない。

дождик は дождь の指小形だが、親しみを込めた雨の呼び方にもなるため、採録時の降水量までを「小雨」と断定しない。дождь の子音群には発音の変異もあり、IPA は比定語の参考音である。

風(かぜ)同音ボコダ ぼこだпогода 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097314075583893717
語釈・考証

まくぽりの比定:погода /pɐˈɡodə/。

投稿の注記: погода「天気」 vs. вѣтеръ「風」 同音(をと)シスラノは 同=風、即ち「風の音」は слышно「聞こえる」か

погода /pɐˈɡodə/「天気」。まくぽりは見出しの風との意味のずれを指摘し、通常の風を表す вѣтеръ(ветер)を比較する。ボ・コはそれぞれ п・г と清濁が一致しないが、本附録の不安定な清濁表記の範囲で理解できる。

傍記「同音(をと)シスラノ」は、同を風に受けて「風の音」と読むというまくぽりの解釈がある。слышно /ˈslɨʂnə/「聞こえる」が候補で、物の名称に対して聞こえ方を答えた表現となる。シスラノ全体との音対応にはなお説明を要する部分がある。傍記の位置は本文の項目区分と併せて確認する必要がある。

雲(くも)ヲブラス をぶらすоблако 低まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097314075583893717
語釈・考証

まくぽりの比定:облако /ˈobləkə/。

投稿の注記: なにゆゑ「ス」?「カ」の誤写か? OCS облацы (pl.) か

облако /ˈobləkə/「雲」。まくぽりは末尾スと /kə/ の不一致を挙げ、カの誤写や教会スラヴ語の複数形 облацы を比較している。教会スラヴ語形を、当時のロシア語話者の実際の発音としてそのまま採ることはできない。

生森(1978)の『北槎異聞』対照表にも雲に対応するス終わりの形がある。したがって、スを『蝦夷語箋』一冊だけの誤りとする説明には慎重さが必要。образъ /ˈobrəs/「像・イコン」も音は近いが、佛像ホシフが богъ に対応するという読みと組み合わせても、雲を表す語が得られる相互交換にはならない。

生森將人 1978『北槎異聞』のロシア語。

水(みづ)ボタ ぼたвода 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097317311715913790
語釈・考証

まくぽりの比定:вода /vɐˈda/。

投稿の注記: 有声音は清音、語頭の v はバ行

вода /vɐˈda/「水」。語頭вをバ行、дを清音タで記す。в・фがすべてハ行になるわけではなく、本附録の中にもバ行との揺れがあることを示す項目。無強勢の第一母音と強勢のある第二母音を、仮名のオ・アのみから同じ弱化と扱わない。

火(ひ)ヲコニ をこにогонь 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097317311715913790
語釈・考証

まくぽりの比定:огонь /ɐˈɡonʲ/。

投稿の注記: 末尾の「ニ」は軟子音 /nʲ/ を写したか

огонь /ɐˈɡonʲ/「火」。まくぽりは末尾ニに軟子音 /nʲ/ の反映を見る。語頭ヲは無強勢о、コはгの転写に対応する。語末に /i/ があったとする必要はなく、軟音を日本語のニで近似したものと考えられる。

寒(かん)イツバ いつばизба 高まくぽり, X, 2026-09-10, https://x.com/mkpoli/status/2098017876884271264
語釈・考証

まくぽりの比定:изба /ɪzˈba/。

投稿の注記: изба「木造家屋」、студёно「寒い・冷え込む」

изба /ɪzˈba/「木造家屋」。まくぽりの後続の指摘によって、家シトジヨノ=студёно「寒い」と組にすると、寒・家のロシア語が入れ替わった関係になる。語彙の同定と和訳の配置を分けて扱い、原文の見出しと仮名は保存する。

『北槎聞略』の寒に対応する形を岩井(2020)の索引で、『北槎異聞』の家に対応する изба 系の形を生森(1978)の対照表で比較できる。これらは比定を支えるが、交換が採録・編纂・写し・版刻のどの段階に起きたかまでは示さない。

生森將人 1978『北槎異聞』のロシア語。 岩井憲幸 2020『北槎聞略』巻之十一〈言語〉片仮名ロシア語索引。

寒・家の入れ替えを示した投稿:まくぽり 2026-09-10、寒と家の入れ替え。

暑(しよ)シヤルコ しやるこжарко 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097317940911919496
語釈・考証

まくぽりの比定:жарко /ˈʐarkə/。

жарко /ˈʐarkə/「暑い」。状態を表す副詞・述語で、寒に配された изба と品詞を合わせて解する必要はない。жのそり舌摩擦音をシヤで近似し、語末の無強勢оをコで記す。ロシア語の弱化母音が日本語の同じ母音段に一律に写されるわけではない。

春(はる)
レスナ校訂
原文:ヲセン〔ママ〕 をせん
校訂理由

原画像では「春(はる)」にヲセン(をせん)、「秋(あき)」にレスナ(れすな)を配する〔ママ〕。ヲセンはロシア語осень「秋」、レスナはвесна「春」に当たり、二項の語形が入れ違ったものと推定して校訂する。寒・暑・春・夏・秋・冬・正月と続く見出しの順は崩れておらず、夏レタ(лѣто)・冬ジマ(зима)は見出しと一致する。まくぽりの比定(2026-09-08、https://x.com/mkpoli/status/2097318289747902842)による。語義はГрамота.ру「осень」「весна」(https://gramota.ru/meta/osen 、https://gramota.ru/meta/vesna)による。

осень 高まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097318289747902842
語釈・考証

まくぽりの比定:осень /ˈosʲɪnʲ/。

投稿の注記: осень「秋」

осень /ˈosʲɪnʲ/「秋」。まくぽりの指摘どおり、秋レスナ=весна「春」と見出しが逆に対応する。語形を単独に解く場合より、対になる二項目をともに説明できる入れ替えの方が根拠が強い。

校訂では秋のレスナと語形を交換し、春の位置にヲセンが記録されていることはママとして残す。語末の軟子音 /nʲ/ はンだけでも転写され得るため、火ヲコニのニと表記が違うことは同定を妨げない。

夏(なつ)レタ れたлѣто 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097318289747902842
語釈・考証

まくぽりの比定:лѣто /ˈlʲetə/。

投稿の注記: 弱化の о がア段

лѣто(лето)/ˈlʲetə/「夏」。まくぽりが指摘するように、語末の無強勢оがア段のタで記される。春と秋の交換は夏・冬を含む一方向のずれにはなっておらず、夏はその位置に合う。

秋(あき)
ヲセン校訂
原文:レスナ〔ママ〕 れすな
校訂理由

原画像では「春(はる)」にヲセン(をせん)、「秋(あき)」にレスナ(れすな)を配する〔ママ〕。ヲセンはロシア語осень「秋」、レスナはвесна「春」に当たり、二項の語形が入れ違ったものと推定して校訂する。寒・暑・春・夏・秋・冬・正月と続く見出しの順は崩れておらず、夏レタ(лѣто)・冬ジマ(зима)は見出しと一致する。まくぽりの比定(2026-09-08、https://x.com/mkpoli/status/2097318289747902842)による。語義はГрамота.ру「осень」「весна」(https://gramota.ru/meta/osen 、https://gramota.ru/meta/vesna)による。

весна 高まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097318289747902842
語釈・考証

まくぽりの比定:весна /vʲeˈsna/。

投稿の注記: весна「春」、/vʲe/ → レ?

весна /vʲɪˈsna/「春」。春ヲセン=осень「秋」と相互に見出しが逆になる。まくぽりは語頭 /vʲe/ とレの対応にも疑問を付す。

語末 -сна と意味の対称性は同定を強く支える一方、レは通常のвの転写としては不規則。文字の混同と採録時の近似のいずれも考慮できるが、未確認の訂正形を本文の仮名として置き換えない。校訂では春のヲセンと語形を交換し、原文の配置はママとして残す。

冬(ふゆ)ジマ じまзима 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097318289747902842
語釈・考証

まくぽりの比定:зима /zʲɪˈma/。

зима /zʲɪˈma/「冬」。軟音зと無強勢иをジ、強勢のあるмаをマで表した形と解される。夏レタとともに和訳・語形が一致し、春秋の交換の範囲を判断する手がかりになる。

正月(しやうぐわつ)ヱスハリ ゑすはりянварь 低まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097324828286189743
語釈・考証

まくぽりの比定:январь /jenˈvarʲ/。

投稿の注記: ヱンバリ yenbari のつもりか

январь /jɪnˈvarʲ/「一月」。まくぽりはヱンバリを想定する。スとンの混同を考えると語中 /n/ を回復でき、ハはв、末尾リは軟音рに対応する。これは語形比較に基づく訂正案であり、ヱンバリという別本の実在を示すものではない。投稿の IPA /jenˈvarʲ/ と、ここに示す現代標準音の参考形は区別する。

二月ヘラテリ へらてりфевраль 低まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097324828286189743
語釈・考証

まくぽりの比定:февраль /fʲeˈvralʲ/。

投稿の注記: февраль「二月」。テに対応する音がない。 Невский (1936:44) は ヘブラリ feburari とする

февраль /fʲɪˈvralʲ/「二月」。まくぽりはテに対応する音がないことを指摘し、Невский(1936:44)のヘブラリに相当する訂正を紹介する。

Невский は本附録の仮名の混乱を論じる中で herateri の訂正形を示している。これは論者の修正案として引用する。ヘラテリから架空の /t/ を含む方言形を作る根拠にはならず、また別本でヘブラリと確認できたという意味でもない。

Невский 1936, p. 44。

三月マルタ まるたмарта 低まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097324828286189743
語釈・考証

まくぽりの比定:марта /ˈmartə/。

марта /ˈmartə/。мартъ(март)「三月」の属格形に一致する。日付表現では месяца のような別の名詞を補わずに月名が属格になるため、採録された語が辞書の見出し形と違っていても不自然ではない。

一方、名詞主格 март の語末 /t/ に日本語の補助母音が付いた形も同じマルタになり得る。まくぽりが掲げる марта を採り、格の確定は仮名だけではできないことを付記する。

四月アブレリ あぶれりапрѣль 中まくぽり, X, 2026-09-08, https://x.com/mkpoli/status/2097324828286189743
語釈・考証

まくぽりの比定:апрѣль /ɐˈprʲelʲ/。

апрѣль(апрель)/ɐˈprʲelʲ/「四月」。子音連続 /prʲ/ をブレ、語末の軟音 /lʲ/ をリで記す。ブの有声音表記はロシア語の無声 /p/ と一致しないが、清濁の揺れる本附録では同定を妨げない。