Aynuitak Huskokampi Aomarepu アイヌ語古記録データベース Early Records Database of the Ainu Language

北海随筆

ほっかい ずいひつ · Hokkai zuihitsu · 板倉源次郎 · 1739 · 散文 · 目録レコード

所蔵本 筑波大学附属図書館 53コマ中53コマ翻刻済
凡例

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51

2より之内まて行程 凡二百里(イ二百二十里)3計り此所にて日和を見合渡海するに東風を順風と4見るなり所にて東風をやませといふ山の背より吹来と5いふ意なり此渡り凡十六里(イ十二里又十八九里)なれとも難義の渡りにて6とて三流の潮筋あり洪水の7激流することくにて風ゆるき時は乗切かたし順風を8得て乗出れとも沖にて風ゆるむ時は潮に流されて9の沖へ漂流する事度々なり又夏の間は潮61おこりといふ事あり巳の刻よりおこりて未の刻計りに2止む其おこりやうは海底より潮湧出て四方より3大浪もみ合する故遠く是をのそめは白糸をちらしたる4ことくにて水面一二段も高く見ゆるなり此時に乗掛り5たる船は順風といへとも動く事なく甚以難義に6及ふされとも潮おこりにて破舟する事はなしこの7渡を過て船着の所は則なり此湊片浜にて8潮あらく海岸岩石多き故乗なれさる船は爰にて9破船する事あり案内知りたる船頭にても雲霧10深き時は難義に及ふなり予帰路の時11晴て順風故乗船せし所にの麓にわつか計り12白くたなひきて練#1を引渡したるよふなるものあり13けるにやかて沖へ出波雲霧の内へ乗入とひとしく14空の光も見へわかすくらくなりたる故方所を失ひ15かなたこなたとたよひけるまにやかて日も暮16山はくもりて猶更行方をわかたさる内亥の刻17はかりに西風吹払て月の光見へけるをたよりにして18丑刻計りにといふ所へ着たる事あり此19#2の辺にて山の形海の様も覚へたる所20なから雨風にて山は高くなり岩は大に成たる故

71とも不覚いつくの地にか着けると心細く覚けるに2鶴より又大なる鳥の岩陰より飛去けるをかれは何と3いふ鳥そと問けれは鵜といふ鳥なりといふ鵜は見馴たる4鳥なれと雨風によりて大に見へけるなり総して5海上にての難義は暴風はいふに及はす又雲務に逢6たる時破船に及ふ事なり

7一 は一国にて地続なりといふ所 凡

8六十里許西は東は此両所に関所有て是9より外はとす此所にて往来を改め故なくして10へ往事を禁す城下は海辺にて後 ̄ロは山を11負へり東西壱里計り家続きにて南北へは狭し城は12屋形造にて櫓二ッあり大手の両辺家臣の第宅#2也13家老           

14      

15寺社奉行    勘定奉行

16両人     三人

17城下三ヶ所に高札あり

18一 従諸国渡海之輩対直に売買堅停止

19之事

20一 無子細而へ令渡海売買仕者有之者急度

21可注進事

22之義雖往来何処可為其心次第事

81一 対し非分之義不可申懸事

2右条々可相守之若於違犯之族者任当家代々3先判之旨速可処厳科もの也

4

5 御朱印

6御代々御朱印之写

7

8一 従諸国へ出入之者共不相断と直

9売買仕義可為曲事事

10一 無断而令渡海売買仕候者急度言上致

11致事

12之義は何方へ往来候共可為次第事

13一 対非分申掛者堅停止之事

14右条々若違背之輩は可処厳科もの也仍如件15

16 御朱印

17同文言

18右之条々任去先判之旨弥不可有19相違者也仍如件

20

21 御朱印

91同文言

2右之条々任去3先判之旨弥不可有相違もの也

4

5 御朱印

6一 武家はゆたかにして世話世話しからす乱舞流行されは

7遊興にふけらすして質朴なり国法はゆるやかにして8慈悲を専らにし収納物ゆるやかなり罪科あるものは9国を追払まてにて死罪に及ふ事なし是によりて10近年は他国より邪曲の者とも入込騒動の事もあれ11とも取あけて吟味もなく其分にて事済ゆへ却て12所の者迷惑する事もあり城下の商人は不残他国13ものにて等之もの多く14海辺の者ともあり百姓は産之者また15の者も半あり商人は皆旅人にして百姓と称16するものは皆国人也百姓の業田作はせす只鯡を取て十17五の一を以運上とし余分を以衣食とす是中の収納18物なり此鯡猟誠に天下一の大猟なるへしされはこそ此19干鯡をこやしに用ゆる国々は20かけて是をもちひ数の子は天下一同に用ひて少しと

101せす寄数の子とて袋をほどき子を寄て四角なる形に2干あけてへ献上なり此魚年来敢て不猟といふ3事なし其取時分にはおのつから寄来て時節をたかへす4毎年春分十日過てより寄来る凡二十日程の内に三度も5寄来りて猟を得れは翌年まての渡世ゆたかに事済なり6鯡の寄来るをくきるといふ猟時分は武家を始め中の7老幼男女上下一同此業にかる事誠に田作の秋と異る8事なし春分より始り凡二十日程に取仕廻てにしん9数の子夫子夫に干上ヶ俵物として船に積て10廻す此時へは船入込鯡数の子相場を立て11買取其国々へ積廻す近辺の鯡は12積とて城下にて売払也此仕あけまてに四月中13り五月よりは又昆布にかり其場所〳〵へ船出せり14昆布は西海路にはなく東海路の外海より15へかけて四五十里の間昆布の場所あり16の昆布とあるもの外海にて取則17其所の名なり都て是を取事いと心安き業にて18海底より刈取浜辺へ敷ならへて干上る迄の事也19此業六月中まてにしまひて七月よりは一同に休み20盆中は上下打混しておとりありおとりも古風

111にてはでにはなしの湊々にいつれもおとりあれ2とも別して上手のよしの通路自由成故3なるへし八月よりは冷気強く九月ははや雪も降冬の景気4になるま冬かまへの用意家々にいとなみ春まては何の5業もなく雪の内にて明しくらすなりすへて四時気候6ひとしからす春の中は余寒強く草木に春気の萌も7見へす海風漂烈くして山々の雪さへかへり暮春とても8雨ふる毎に霰ましりの雪ふりての早春余寒の9強きごとし四月中旬頃よりやう〳〵梅桜ほころひ10りて五月に成て椿山吹藤なとも一同に咲そろひ11始て春の気色になれり士暑のものは帷子をも着すれ12とも他方の者は袷ひとへ物にて時気にかなへり土用中13とても大暑のしるしなく七月下旬になりて一際暑気を14覚ゆる事ありされとも終日あつくたへかたきにもあらす15昼過より暑気になりて夕陽に及ふとはや冷気すさ16ましく綿入をも着する程に覚ゆ此暑気とても久し17からすして其儘冷気に移るなりに比して暑を18見れは四季ひとしからす春秋冬三気国とも云へき19なり

20一 広大也より西方はまて 三百

121六拾里東方は迄四百里といへり陸続きなれとも2山々数重たちへたて陸路の通路はなく只海上の里数3なれは極たる里数とも云かたし東西海乗馴たる船方の4者ともに相尋しにまて二百七八十里5三百里計といへりさも有へし此東西両所迄はより6商船行て交易する所也是より奥へは船かよはすといへ7とも北は続きても住居し村々ありて8出て交易する也此船かよわさる変地凡百五十9里許にて北の限りはといふ所也此ふね10通はさる地をさしてともいふなり一国の11周廻り八百里といひ伝ふ事大概の目算里数合り

12一 船通路有所のはこと〳〵くの百姓なり此数百里

13の土地御領主の蔵入の外は残らす家臣の知行に割渡て天14地も余地なし一村の酋長ありといへり15の令を請て漁猟を事とし海物を以て年貢とす16商人はの其村々を請合にて運上を納めて17其請場所に木屋を作りて居れり是を運上木屋と18いへりを支配して漁猟をなさしめ其得物を取納て19他国へ廻して業とすは其得物を商人と相対して20直に交易する是又其所へ行商人はにて運上を131納め其請場所へ入込事也此運上金則武家の知行収納物2なり夫故知行取は多くあれとも斛積りの知行はなし

3蝦夷産物

4鷹  鷲羽真羽八クマ ゑふりこ  鶴  熊胆

5熊の皮  鯡 昆布にて取所の石付と赤とを上品としを下品とす  椎茸

6干鮭 塩引ヒラキ 筋子 鹿ノ皮 ねつふノ皮 との皮 串貝

7煎海鼠  干鱈   鯨石焼棒鯨申イ鯨 鮫油

8一 猟虎皮是は東海にあり島の《割書:江来りて交易す》9一 膃肭臍是は東海の入江にて取なり冬極寒の時うかみ出るを共ヤスにて突又毒箭にて射るなり10一 蝦夷錦衣服に仕立てるをと云巻物をと云多くは古着也11一 あさらし皮

12一 虫巣 五色あり青玉多く渡る

13此三品は西海の交易なり此外珍らしき交易物14ともあれとも御領主へ上りて外へ不出外へ出す事は法度也

15一 此方より渡す物

16八升を壱俵 酒弐斗を壱樽 糀 塩 鍋 出刃 糸 針

17多葉粉 古手 染木錦 きせる

18右の類なり

19一 古来より田作りせされは米はなしより

20廻す御領主は御廻米之内にて四千五百俵御買請米141にて時の相場を以代金上納の事古来よりの御法式なり2其外は船入運上米あり商人より百姓へ仕送り米あり3米生せさる所故還て諸方より米入込米沢山にて下賤4の者とも麦を喰はすかてを喰ふ事をしらす炭薪5沢山にて茶はの上品なるを用ひ水清潔にして6賞るにたへたり塩は土地にては潮焼事をなさるゆへ7より送れりの通路は8廻船常に往来して順風には六日七日に着船する故9思ひの外にの風俗ましれる事ありへは船通路10なき故よりは還て遠く覚るなり

11一 国中東南の方は山多く西北の方は平地なり山は岩石

12多くして岑嶺するとくきりたてたる如し高山の13絶頂多くは金銀の気或はイワウの気にて焼くつれ14たり土地に金気多き事余国に比類なく七十年以前15まては年々砂金を取御領主へ納め夥敷出しける16其砂金場はにては17にては等をはしめ18一場所とても数十里にわたりたる場所有て広大なる19事ともなり西はとて是は海より上る砂金也20惣して余国に出る砂金は金山より流れ出る砂金にて151とてもといふ所より揚る砂金わつか斗の事也2の事ハ山川はいふに及ハす原野とても砂金あり3敢て金山より流出すにあらす土地一面に生する所の砂金也4然れとも土地一様に生る其河源の金気あるへき事ゆへ5是を吟味せし所に砂金場の河原に金山あり6其証拠相し既に見極たり此地砂金を元事を知て7金気のつるを追て所中へ入事を知らす是によつて8以前より山を堀といふ事はなし今まれに見る所堀たる9路なきにもあらされとも砂金を見へて堀たるにて10金石を目当に堀たるにてハなし夫故銀山銅山等ハ11猶更見知たるものとてもなく只打すたりて有はかりなり12此地銀遣ひなし金つかひも小判の通用は近き頃より13仕舞たると見へて今に砂金遣ひの名目なり14

15小判壱両に   金七匁イ三分弐分

16金壱匁に    銭六百文

17右金壱匁といふ事則砂金遣ひの遺意也

18一 石山にあらさる山々は材ありとて十里に及ふ

19大山捨山なり二十年以前此上存すれにて火を出し20七日七夜焚ける故山半分は焚尽したり其後ハ留山21に相成今は伐出さす桧は惣して諸材の内にも少き161ものよしへかけてもまれなり増て2桧山は残らす伐尽して今伐出す所の桧は皆桧葉と3いふ木にて桧にはあらさる也に蝦夷松とて一種4あり桧に類す此材ある山は所々にあり是又他国に5なき材なりといふ山師6松山を請合今最中伐出しへ積廻し今桧の代り7に是を用ゆにて献上台障子曲ヶ物等に用ゆる所8木目細かにして筋目通り桧よりも美なりまた大葉9五葉松あり蝦夷松よりは劣れりといへとも良材也10雑木にはといふ木あり樅の類なり11梅セン桂栃朴木榎黄柏等多し竹はなし矢竹斗り也12土地広大なれとも寒国にて生理少き故か草木禽獣13魚鼈まて本邦よりなきもの多し

14一 の交易物の内錦青玉等はより持来る

15なり惣名はといふ国廻三百里程の16嶋なり此嶋西南海の方は遠浅にて沼のことく又潮も17濃くして重きゆへに船乗かたし西面は二尺斗の大芦18又椰子の実流れ寄を取来りて商人へも与ふる19事ありへ近き所をといふ此より20といふ所へ海上三里といふ171より陸続き五十里計りといへり此より北2方にあたりてといふ所あり是3ものはいへり未考4錦青玉等も此両国より渡し来る5の者ともは両国へ商に行て常に交易するとなり6言語はとは又違ひて通セさるゆへ7幼稚成者を両国へ渡し置て言語ならハセ是を以8通辞とセりともに文字もあり人物9よし米酒たはこもある故交易物は鉄類を望む鍋10釜出刃の類を渡すとなりといふ船頭11行けるに折節の者共来り合て物語等12セり此は両年へ渡東西海共に夷地功者成13ゆへに言語も通しの者ともと咄合て此者とも其14称美し巻物をあたへけるを披きて見るに大小の文字15書まセ多くハ蛮字と見へて梵字のことし又漢字も16ありて真文字に書たり本邦の三社の詫のことくに17書くたして上中下三段に大き成朱印を押セり何といふ18事しれさる故へ帰りて領主へ上けるに学僧共19寄られ吟味ありけれとも蛮字故知れかたく何とも20分ちかたく右の書物は領主へ納むとなり

181一 西海にて四十里の砂浜也海より砂金あかる事

2是も余国に比類なき事也此浜西南に海を請たる3地故春夏東南の風には波あれなくして秋冬4西風のあれには大洋より波濤を押あくる故此時5海底の砂金を岡へ打揚る也春夏とても大荒あり6たる翌日は砂金上り一帯黄色なりといへり此地真向に7西を請て外にさへきるものなき故沖にて破船の道8具等此浜へ寄る其道具の内見知さる品々あり又9大木なとも寄る事有て是又不見知木も有なれハ10異国より来る物共と見ゆるとなりより是迄11海上百六十里也此辺より迄の間は山少く平原12多し或者云けるは惣して国は東南を前とし西北を13後ろとしたるもの多し此国はさにはあらす西北平坦の14地多く居住によろし東南はこと〳〵く山々にてしかも15崎斐絶壁すさましき景色なれハ今のは国の16うしろなりといひける然共此極寒の地にて中々17住居成へき地にあらす草木魚鼈まて少き故18たるも住セす前々砂金取に冬こもりセし者もあり19けれとも多くハ寒気にたへす死亡セり死セさるものも20へ帰りては病者に成て廃人になりしとなり

191一 船乗のもの共いひけるは大洋へ漂流して方所を失ひ

2いつれへなりとも国ある方へ寄セんする時は雲を望んて3是を知る根ありて立たる雲をわうりやうといふ是を4見当に乗付ると必此下に山か嶋かあるといへり5大洋へ漂流セし者のいひけるは西南北を望めハわうりやう6なしまれに晴天の時申事に当りて幽かにわうりゃう7見ゆる事ありいつれの国といふ事をしらさるよし也8着はなとにても有へきやされハ商人の云けるは9と対してあると古来よりいひ伝へたり其10方所いつれといふ事さたかならされとも余り遠きやう11にも覚へす其故は三十年以前 の御代12官人李仙達といふもの此小舟にて漂着セり13下官壱人商人壱人召連たりよりへ御注進14有てへ被召御吟味有けるに漂着にまきれなき故15へ渡され無恙帰国被 仰付たるとなりへ御注16進の往返の間に有ける内好みに応して書たる17墨跡今に所持の者あり能筆にては無りけるよし18なり又十年以前へ交易の商船暴風にあひ19へ漂着セしをへ送り帰しにて御吟味20にあい別条なき故へ渡されける事もあり201是を以思ふにの産物の内に鱈鯡鯨五葉松等2あり則の産物に同し依てとは遠3からさらん事を知れり

4一 に人参有へき事を思ひて船乗のもの共へ彼是

5尋けれとも知る者なし商人は海を知りて山を知さる6故なり竪根人参もありといへとも見当らす其辺栃木7多くしてへ連れり先年人参の種8とへ拝領ありて植付心見の儀被 仰付ける今9にはの内といふ所二ヶ所の10山上北向なる所に植置たり土地にあわさるゆへか増長11セすして今に植たる時のまにてありはさはなく12土地に合たると見へて元来二本植られたりけるに13翌年は実のりて其実はへ五本出来て今ハ七本あり14根も節根にてはあらす立根なりと合15セて見るに枝のわかれ少し異なる事あり16ちかひの故にや立根なれハ和の節根とは気味も格別17なるへしとは七里の海を隔たる斗りにて18かくのことき風土の差別あり予へ登りて此19一草を心かけ幽谷へ至る毎に尋ねさかしけるにはた20して見出して数十茎取得て持かへり今に所持セり211功能を心見て世に益あらハ国益と成へし

2一 の並にといふ大河あり川口広さ壱里

3はかり急流なり壱里程乗入れハ段々流れゆるく4川幅次第に広し四十町五十町に及ぶ所もあり常に5水多くして増減の時なし此川源知る者なし先年6といふ所の小舟に乗て泝り日数十7二日のほりけるに其源知れさるといへり川端に8住居して商人も行所なり又9といふ川は此を倍セし大河なり河辺10村多くにての多きは此11第一とするよしなり此大河あるを以て国の大なる事12知るにたれりとは大河の事とハ小川の13夷言なり

14一 は東海商船通路の限りなり猟虎も此

15所にて交易するなり此辺嶋多し所謂16大洋へかけては何程嶋数あるといふ事を知らす17へ知れたる嶋数三十七いつれも大嶋なりすくれて18大なるは数十里に渡るとなり嶋々に居住して19漁猟セりも其一嶋なり猟虎は蝦夷産物の20最なるものなり其嶋の交易に来て221物語しけるは一とセ難風にて数百里の外へ吹出されたり2し時漸嶋を見付て船を寄けるに其嶋のものとも男女の3差別もなく皆一眼にてありけるま恐ろしき事に4思ひて舟を差出しけるに大勢渚へ出て物なといひ5けれとも何といふ事ともわかちかたく通セす6よりは北に当りたる嶋のよし也又東へあたりたる嶋の7内に熱国ありて毛髪縮みたる有ともいへり

8一 より二十里手前にといふ所あり

9大材を出す八年以前商人といふ者10始ての山入して材を出セりみな帆柱に用ゆ11へし此時より直にへ乗付の材木問屋12右の材木共揚たり大材故価を待て今に残りてあると13なり此乗方大洋を来りて甚た近しといへりさもある14へきなりの形状北より東へ広しの向ひ15東北にあたる地より横に東海へはひこり出たる地勢16凡二百里計なり古人持伝へたる地図みな杜撰なり17辺土さも有へき事なり 本邦の地図といへとも微と18するに不足事ありハ西国の限りは東国の19限り風馬牛も不及然るにの沖乗の漁舟と20沖乗の漁舟と争論ある事あり又へ漂着231セし事あり雨後晴天の朝の山より2見ゆるとなり又人もへ漂着セし事もあり梅雨3後の順風によりへ直乗心易しといへりより4の焼る響雷鳴のことく近く聞ゆるといへり5よりも乗近しと云々故により6乗近しとはいひ伝へつれとも海上の事順逆の風に7よりて遅速あれハ行路遠近の程しかと極めかたし8殊更一両度のみ乗たる事にて往返の里数にあらされハ9大洋へ押出し辺際しれさる事故近きともさしたるに10計りかたき事なり惣して西海は乗よく東海は乗11かたし西海はみなと〳〵多く第一雲霧うすし然れとも12九月よりは波あらくして乗かたく東海は湊々遠くして13雲霧ふかく朝暮に方所を失ふ又東南風あらき時ハ14つなみのことくなる一打きりの大波ある事海中不思義15の変なり又といふ事ありて大洋へ乗出して16風ゆるまる時は此潮にとられて東方へ引落さる事有17廻しの材木船行末しらすに成たる事年々18かきりなき事なり 御当世東海廻りの御城米被19仰付といふもの相勤今に至て御廻20米之内数十艘東海を廻りて着する也是又度々241破船ある事にて数十艘無難の事ハなき事也東海は秋乗に2よろし西風にて雲霧を吹払東南の風なき故大波来らす3といへり又天地の水は東流する事常なり西海はしからす4東方則国なる故陸に向て東流し東海はさわりなきゆへ5直に大洋へ東流すおのつから廻船陸をはなれ安くして6乗かたきなり

7一 の手前の麓に金山有て

8いひならハセり朝日輝く時遠く是をのそめハ金色有て9旭に応するよし商船是を目当とするといへり此辺10といふ所は砂金ありてわ前も取たる事あるなれハ11金山有へき事也しかれとも遠望すれハ金色に12光るといふ事は所用ひかたし金山は金色に光る物にては13なし夜金銀の気を機といふ事は光り物のことくにみゆる14事なり是は金山に度々ある事なり15ても見し事なり金色に光るといへるは金銀山にはあらす16銅山なるへき歟

17一 砂金はに多し七十年以前はより

18砂金取数万人入込取たるとなりとて今に19の谷間にありより相止み20へ入込事制禁なる故其後再興する者もなしいま251とても以前のことくにセは夥しく屈事也2といふ所のにて制強者成故東西手近き3ともを手下につけへ敵セしなり仕置延引セし内に勢ひ4強大になり三年にわたりて戮セられたりまて5七十年なり惣ては制強にしてやもすれハ6今を蔑にセりのあたりは別して7取扱ひ六ヶ敷となり去々年もにやかましき事8あり去年は商船の行事やめられたり

9一 東海にといふ魚あり其大さ何程といふ事を知らす

10鯨を呑といへり春夏は南へ出て秋よりは北海へかくる11の漁船ともは度々出合て是を知れり浮上る12事は稀なり海底雷のやうに唱て波浪あらくなり13鯨鯢東西にわしる時は必来れりと知て猟毎とも14早く逃帰るなり稀に浮みたる時見れハ大なる嶋三ッ四ッ15出来たることくになるは背の鰭なるへし全体を見たる者ハ16なしといへり又といふ魚ありて鯨を切て喰ふ17是は小魚にてにもあり鯨の死て流るを見か18けれハ小船にて鯨へ乗移り切取時是を見るに19の切たる跡あり又鯨の臠の浪に浮みて家来る20事あり是もの所為なり又といふ261魚あり形は海エイ魚のことくなり腹内にあふらわた2ありきの珍味とする所也をとれハ腹を割3て油わたをとり其かわりにを入て海へ放す4あつて死する事なし死セさるといふ事ハ腹内に5のある度々取あてたる事あり6とは木をけつりかけて人の形のことくに作れりこれ7の船たまにて神のことくに渇仰セるもの也西海8にはかわりたる魚なし鯨は多し是も春夏は南海へ9出て秋より冬は北海へかくるなり一説に冬中は10の沼へかくれ居て春は南へ出る夫故背に11牡蠣生する有といへり大鯨の浮みたるを遠く望み見れハ12背は既に白く見ゆる是牡蠣の生したるなりといへり又13鶴鶏鴻雁の類春は北へ帰る深山の沼には夏虫も14岸陰に潜て群居セり15土用中通りしに鶴鶏鴨等群居セり16沼には猶更あるよしなり

17一 にて田作セさる事は寒国とて土地に合さる故

18なるか又田作の時節鯡猟と差合ふ故古来より耕し19心見るものもなきか近来もの来てといふ20ところへ少計り植付心見し所に生立は其宜敷271古へ過たる計りにて実のらす又といふ所にても心見2けれともさのことくなる故其後稲は出来さるものに成て3又心見るものもなし畢竟霜の降事早き故歟米不自4由はなき故心を尽すものなき故か不不出来といふ事ある5へきやも以前はのことくに米不出来国たるへし6今のよりへかけてこと〳〵く平田と成しは7久しからさる事のよしの内北海の辺は皆新田8にて米能出来る故山間まて田地と成しなり惣して9新田開発の場所早く利を思ふ時はならす当前は10実のらさる心持にて取からされは成就なりかたし11一年心見て不出来故土地に合すと決定する事有へからす12米のみならす麦も出来さるものにして作らすありけるを去13年早麦の種を三ヶ所に心見つれは成程能出来実法て14またまた帰路の時其種持来しなり粟稗蕎麦大豆15小豆等にても畠にこやしせすまきおろしたるはかりにて16相応に実のれり茄子瓜なとも能出来る也惣して17草立は余国に倍して繁茂するは土地よろしきゆへ18にや又雪にて押れ陽気一時に発する故にや虎杖蓬19なとは一丈余りにのひたる所あり馬にて通るに枝葉其20上をおほひて鞭を以て打払打払通る所あり款冬281大成あり常に見る所は葉の大さ三尺わたりも有へし2にはなを〳〵大なるありて五六尺わたりの葉有と3いへり蕨自然薯蕷沢山なり自然牛房胡蘿蔔又多し4薬草の類は見しらすといへとも附子黄精は所の者も見知て5多くあり

6一 城下にと並て皆船着なりより西方

7十八里といふ所あり諸国の廻舟入込第一の繁昌8の所なり入込所の国々は9其外船も来りより瀬戸物類10をも積来る事ありされは此に去々年かわりたる11事あり七月初旬より雨降つきやう〳〵廿日頃になりて12晴ける廿六日の事なるに天気晴朗にして村の者とも13海へ出て昆布を取此ほとの積雨の日数おこたりたる14いとなみを男女打混して浜辺にむれ居けるに未の刻15計りに俄に山の方震動せしま雷霆やすると見返り16けれとも雲一点もなき晴天なれはふしきの事に思ひて17見る内に海岸俄に崩れかりけるに驚き騒て海へ18逃入けれは海底の岩石おのれと突起し一島出現せるま19是にのほりける男女数人きもきへたへ入けるしはらく20有て人々立さわき此海岸の崩れ又一島出現の有様を291見れハ方百間計りの間山落入て谷となり又方百間計の2小嶋海中に出来たり辺土にはかるふしきなる事も有3けるもの也予も行て見けれとも此辺海岸小嶋多く岸は4岩石にて荒磯なれハいつれ新たに出来ける小嶋とも見へ5さる故うち見には聞伝へとは違ひてふしきの思ひもさめ6けり此より三里西といふ所迄御巡検も御出の場所7にてより十二里といふ所西方の限り8なり東方はより廿七里といふ所領分の限りにて9より一里といふ小湊廻船入込繁昌の所なり東廻り10御廻船も此所にて日和待をして出舟す是迄御巡検の11御出の場所なり此両国とも無之船掛りの入江12にて別して土地よろしく三里四方計りの平地あり13畠として百姓住セり此辺の山は尾崎長くそひへゆるやか14なる景勝ことくなり此より三十里15といふ山あり硫黄気にて絶頂焚崩れ臼の形の16ことくに残れり麓にとて安置セり17も是を尊敬し不思義の奇瑞も有よし云伝ふ18は往来禁制なれとも廻国の僧は忍ひて参詣する也19の麓は又入江にて景勝無類の所にて20東はとて信心のものは参詣する山なり一国悉く301高山にて平地なき所故格別に高山と見るもなし2より五六十里奥にといふありを直に移居3たることくなる高山なり然れとも十にして三ッは低4かるへしにてにて5と称美す形状は少し似たる所もあれとも高さは6の三分一なるへしは此両山よりは倍セし高さ7なり中の高山と船乗の者とも称て中央の8大山はといふより八里あり山々の峠を越9事十一峠にしての半腹に至る此絶頂へ登りて10見る時は目力の及ふ所はさへきる山なし南は11より西は海中に見へ東は12なり北へ続て群嶺連り陽日遠く13直下にして船の寄も見ゆるなり是中の金銀山の14根本也金銀山の事も本業なれハ深山幽谷へ分入て人力の15及ふ所まては吟味セりしかれとも土地広金銀山数多の16事にて中十分一もいまた見極めす増て〳〵懸てハ17数年を歴るにあらすハ吟味をかたかるへし

18一 御治世の初め御領主へ御尋有て

19の地理図指上られに命せられ写とりて20上りたるといへり又の国廻御の為311大舟を仕立てへ遣されへ乗廻しけるに順風まれに2して日数懸りといふ所まて渡りけるに程3なく秋の末にも及ひ海上あらく成て乗かたき故4まても渡らすして帰りしとなり残念の事なり5理の図元より所持セり又にて人の秘蔵6セしを写取しも数通あり両年彼地にありて右の図と引合7の様子考見るに相違多しよつて両年見分セし山々の8方所を碁にし具に地理図新たに仕立て大図小図ともに9あり

10 未初夏

11一 は海辺に住て山に住は少く一体皆漁人なり

12山に住は稗粟等作り又獣を取て食し其皮を13着す夷の気質正直にして痴なりセわ〳〵敷事なく14心長くして悠然としたる風なり元来下国にて獣に15ひとしき形なれとも心のゆたかなるは衣食住の憂ひなく16金銀通行セされハおのつから利倍の欲なき故なるへし17家居はいつれへ移すとても心にまかせ家作は山より木18を取来り縄にて結ひむしろ能にし床なくして19みな土間なり或は木皮にておほひたるもあり衣は20といふ木の皮を以て手織にし是をといふ321又鹿の皮をも着しあるにまかセたる体なるは寒暑散2て覚へさる故なり散し髪にてかふりものなく既に3して平生は帯をセす食物は海より上れハ敢て蓄積4の用意なし朝夕極りたる時刻の食事なくたくれ方5より喰ふ一食なり形象一眉深目長鬢にして惣身6熊のことくなる毛生たり何れの国より習伝たるにや耳7かねをし又はち巻をセりうち見には制強に見ゆれとも8又多力なるもなしと角力さセるにみな腰より9まけて勝者なし腕と頭に力ありて重き荷物を10額へあてものをして負へり性甚た酒と多葉粉を好み11漁猟の得もの皆是に尽セり身心これか為に役セらる12なり

13一 女は髪をきりまわして禿のことし色白にして耳かねを

14セり婚姻の約束極ると唇と手へ入墨する事古風なり15唇は廻りへ網の手のことく碁雁のことく色々の形を心々に16成セり仍手に文字多きをだてとするよしなり17のうへに帯をし襟に青玉を珠数のことくに連ねたる18ものをかけ又とて丸鏡のことくなる物に結を付19胸にかくる浜へ出る時は芽ハキをして夫に添て働く20事かいかい敷見ゆる夫は漁猟し女は薪を取331織家事を勤る事本邦よりは女の心さし貞なり

2一 婚姻は一類の縁を引て取組一類ならさるは取組す親族ハ

3其末々まても睦ひ遠所にありといへともいひかわして4因縁絶る事なし家来は世々家来也是も他へかセし事5ならすもし悪事あれハ其邑を追払追放の者は又他村へ6行て雇となる今あり是は古しへ7よりのにはあらす大かた追放のものともなり

8一 にもあり言語通セすといへとも頭ハ月代

9を少し計剃はんかうにして髭あり此は本邦住10古よりのなり故にと出会する事を11のそます系図をして其差別をするなり12といふ所にといふハ巨擘者にて智謀13本邦の人におとらすの酋長なる故に14大守へも目見をするなり予一日過りしに娘二人あり15琴を弾して歌曲をなして饗応したり

16一 村の首長をといふ則本邦の名主也より令

17を此者に伝へて威権ありとも慎て此下知に随ふ18春毎に産物を乗セてに来り領主へ礼をなセり甚19恐れつしみたる様体なりへ着船して木屋へ上り20休息し居ともいまた目見済さる内は外へ出す酒もり341セす商等もセすして隠便なり目見の時は鹿皮2等は着セす本邦の女衣裳の古きを着し帯をもする3なり又を着するもあり目見済て領主より酒を4たまひ又米を賜ハる木屋へ帰りて祝義ありたまもの5酒を中座に居一同に円座して女は夫の後に座セり6とも相対して手を摺て祝言あり女酒くみを7とりて酒をもる亭主先呑て客へさし互ひに礼8客あり髭揚とて竹へらのことくなるものを酒をもり9たる椀の上に置てうけとり渡し有互に手を摺て10慎しめる体なり偖左の手にて碗をとり右手に11髭揚をもち酒をもりたる碗を捻廻し髭揚に酒を12付て左右うしろへ酒をふりかけ口を曳て唱へ事をし13祀り終りて髭揚にて鼻下の髭を揚酒を呑茶わん14一はいの酒なれと二口三口に呑本邦の濃茶を呑体想にて15急度慎しみ呑ふり甚以てよし碗をすりてしつく16まて呑ほし又一はいうけて髭揚を乗セて亭主へ17返す幾度も此礼義くすれす酒たけなわにおよひて歌を18うたひ又上瑠理を語る声音は仏家の称名を唱ふる19声のことし其後女に命して躍あり此おとり更に20風流なし胸を手にて打又手を打てくる〳〵廻る351はかりなり鶴の舞といふあり鶴の羽翼ひらきたる2体にて躍るなり折鶴の鳴声をまセて拍子を3とれり甚興に入面白き体なれとも本邦の者見ては4更におもしろからす上るりは上るりの音にて5ゆるりと語りたるものなり尤はやめの所も有とみへて6声音をはりセめてかたる所もあり一様の酒なれハ7呑尽セるを期とす肴もいらす只のみに呑計り也8目見済てよりハ町々へも出て商ひをもする也9は年々には来らすのみ春毎に来る也予か10旅宿へも両人招き酒を呑セけるに歌をうたひ11ける故歌の言葉を通辞へ尋けれハ高き山へ登れハ12波のよセくる見ゆる高き山へのほれハ波の音聞ゆると云13事をくりかへし〳〵うたふなりといへり酒済て帰ると14引続き謝礼として一人は嶋鳥の羽一尻一人はかいくしら15一掛持参セり来るに連立ては来らす銘々に来れり16是はより百二三十里といふ所の17名はといへり名を尋事其者に尋てハ答へ18さる法なり是か名は彼に聞彼か名は是に聞事なり此19二人は御身方と申てにも功のあるもの也20の時徒党セすしてへ泥進セしもの361ともの末葉なりといへり

2一 神仏なく文字なく医薬もなくた酒を呑時唱へ事有て

3祀る様体彼等中に尊信する事あると見へたり何を祀り4何を唱と尋けれとも其訳を言聞のセす惣して人の尋る5事をあからさまにいわす愚痴に守りつよし国に神仏の6像もなけれハ何といふ事しれす若は天を拝し日を拝7する心もあるか老等朝に海岸へ出て拝する体あり8又戸外にて酒を呑時は天を見て祀る家内にては天9見へさる故座右の柱へ酒をそくなり是天を祀るこ10なるへしを崇敬するといふ事本邦にて云伝れ11とも定かに然とも見へす上瑠理の内にの事あり12幼年の時小船に乗てへ来りの娘と通し13ある時狩に出るひまをうかひ秘蔵セし虎の巻物を14盗みとり又小船に乗て本国へ逃かへれり狩より帰りて15追欠しかともにて暴風に合吹返されたりといふ16事を作りたりといへり又或筆記にといふ所に17の社ありて今にたへす祭り此所のはいふに不及18余村のも崇敬するの時出たる19なりといへり此事尋けるに中にあへて20知ものなしか村はといふ所なり山中に岩屈371ありていにしへ仙人住けるあと云伝ける事ハあれとも2社とてはなしといへりの聞違なるへし3といふ所にといふ所あり此所より4へ渡り給ふともいへり是も又定かならす5に鍬先といふものありけるをの甲の鍬形なりとて6宝物とし崇敬セし有けるよしの甲といふ所の7語とすへき事もなく只いひならわセし事と聞ゆいにしへ8戦争の時は落人とも多くへ落行けるま9をあさむき古来英雄の名をかりて威勢を張たる10ものもあるへし今に兵具のあるは是より渡したる11にくはなく落人の兵具の残りたるなりともいへり鍬先と12いふは鍬の形セし物にて廻りに巴を彫入てあり則鍬の13いまた独をなさる物のことくなれハのものとも鍬先と14いひならはセしものなるへし是又の細工にあらす15以前より渡りたるなるへし此鍬先甲の鍬形の16ことくなる故の鍬形といひ伝へたるなりの宝17物にて神物のことく崇敬セり中多くあるもの18にもあらすまれに所持セる夷は秘して深くかくセり19の事を夷言にといへり是は上瑠理に20ありけるものと聞ゆ此浄るりの根元いかして作り381初けるにや此文句を翻訳セは大略知るへきなれとも2夷語に能通セし通詞なし又文字なしといへとももの毎3覚置にハ縄を結ひ置或は木にきさを付置心覚とす何年4過ても此心覚わする事なし商船へ至て勘定の5入事あれハ彼結ひたる縄ときさある木なと出して去年6の事をも審りに弁するとなり往古結の意も此の7ことき歟物覚よきのみならす物を見るにもとき事あり8一村の者なれハ足跡を見て是を知る更に見違ひなし9又忍ふ事上手にて禽獣を射るに草莽の中を10り腹はいになりて仕寄るに禽獣更に知る事なし11となり医薬なきはなけかわしき事也夫故疱瘡麻疹時12疫等にて死亡の者多しよつて病を怖れ死を嫌ふ事13常人よりも甚し病者あれハ父子兄弟といへとも打捨て14山へ逃込見殺しにするとなり死者の取置は新しき15を着セ新しきむしろに包み山中へ埋む秘蔵16セしものとも残らす菰に包み同所に置り家は焚て17仕廻家内の者共は又別に家居セり壮年なれとも死の18用意は予め心懸置となり死者の婦はかふりものを19して面をあらわさる事凡三年又再ひ嫁セすといへり20惣して女の心貞実にして嫉妬の気なく夫に随ふ391道甚以慎めりのならひ身上よろしき者ほと女房2多くもてり女房五人あれハ五ヶ所に住居し事あるおりには3打寄てとも〳〵に夫をたすけて付合も睦しといへり産を4するも自身の取まかなひにて外の手をからす出気付と5横にふして安産し直に海へ入て子をあらひ又汚たる6ものともすき洗ふ曽て血のさわく事も其子出を7わつらふ事もなしとなり

8一 男は半弓毒箭を持弓の長さ五尺計り又は

9の木の幹を丸削りにして弦は藤蔓の心を以て10よりあわセて是を用ゆ強弓にて微力の者ハ引得す11肩を入る事ハならす矢は三尺計の矢竹に真羽を二羽12付たり鏃は木を削りて用又石を焼ても用ゆ鏃に毒を13ぬり付る禽獣を射るにためねらふ事なく中ためにして14即放つ曽てはつる事なく中りこまか也大方ハ後向に15なり振反りて発つなり鏃に刃鉄を以作りしもたし16なみに秘蔵セり此方より渡したるにはあらす出刃をあら17砥にておろし鏃に作たる物なり又魚を突にヤスを以てし18鎗のことくにして常に是をはなたす此所作甚以得物也初より19業とし自然と妙を得たり海底を行魚を見付二丈計底へ20ヤスを投突にするにあたらすといふ事なし大亀鮫海獣401等はヤス一穿にて死さる故追穿とて又一本投突にして2とめるなり鮭鱈等を穿ヤスは釣のことくにして柄先きに3結付たるを修練を以て魚の咽へ引かける川魚は泝る4物故鍵のことく成ヤスを以急流へ落かけて引掛るやうす5心安く捕得れとも鮭多ある故に他邦にて成へき事に非す6とて山刀の様成もの所持セり常に帯しはセす7はれなる時は錺り置なり此かたな細工にてはなし8渡りなり銀を自由に遣ふと見へて大かた銀の9かさりにて獣草花なとの彫ものなり身はよろしき物10なし八九寸はかりありて鉛のことくに見へて又ことこと11赤さひに成てあるもあり畢竟宝物として用心向の12為にはあらす夷中殺害の事なき故刃物用意なきと13見へたり又といふものあり長さ二尺計の棒に七寸計14の内は鑓を廻りに打丈夫に作たるもの也打とて夷15中多しなみの所作なり武士の兵法のことくに幼年より16稽古せり打やうの手心修練打るもの請身互ひに17稽古なくてはならぬ事なり是を用ゆるは鬱憤有て18打果す程の事に及ひたる時扱ひのもの入て和談せしめ19遺恨なきために互に打て鬱憤を散する也また20罪あるものをも打といへり又といふ事も有山海411にて怪我をして横死せる者は一類あつまり泣弔ひて2出刃を以て弔ふ夷の頭を一打つ互ひに打て血を見て3是を弔とする也横死せし者の苦しみをおもひやる4心なりといへり

5一 毒の事にて知たる者なし商船の者共は年々

6往来して数十日逗留する故懇意に成て隔意せされ7とも毒の事は伝受する事なし女子共をたましすかして8聞といへともいはさるは一同の守と見へたり毒を合するに9一ト間へ籠り数日掛りて調合す毒薬の利をためし10見るには己か舌を糸にてゆひ廻し舌の先へ少し計11毒を置て心見る也毒気ゆるき時は又練直し幾度も12練直して大切にする事也舌の上へ乗せて気の強きと13弱きの差別知るとなり心見ると其ま舌は小刀を以14こそけて毒をおとし糸をとくなり或時毒調合の所へ15行合せるもの有ける時其ま薬種を隠しけるとなり16其時余所なからみしに蝦夷附子の根第一の遣ひもの17にて其外四種あり足高蜘も入といへりされは毒調合18念入る事断也熊とても一箭にてとまる毒なるに19若薬気薄く一箭にてとまらさる時は熊の為に20得らる故極て念入る事也の熊は余国に無之421大熊にて荒れたる時は人に向其強力敵すへからす2にて度々里へ出て馬を取故鉄砲にて打留共打所3あしき時は三玉四玉にても留らすとまらぬ時はうち4たるものかならす得らるなり是によつて鉄砲打者も5なき故いよいよ横行する事なり然るに一箭にて留る6毒薬は奇妙の事なり又といふもの有獣の7通ふ道へ縄をはり柱を立てはしきにして毒箭を8仕かけ縄へ少もさわるとはしきにて箭を発する仕懸9なりあたらすといふ事なく中りて死せさるものなし10獣を夜る取仕掛なり熊に羆熊の二ッ有よし本邦の11熊は小熊にての熊は大熊也馬を取事は猫の鼠を12とるよりも易く平首を推折て肩に引かけ山へ入と也13といふ所にて馬を見入れ夜々其家に来るを里人とも14其馬の左右に四人各竹鑓を持厩の上には八寸角をならへ15其上に二人又竹鑓を持て居馬を喰ふ時左右より脇腹へ16四本竹鑓を突込上より二本肩へさし入けるに其熊事とも17せすして両の手にて左右四本の鑓をかなくり捨立か18厩の上の八寸角を両手にて投捨ける故六人の者とも逃去19けり翌朝其跡を見れは血の引たる跡山中まて有けるといへり20熊の皮を見るに長さ九尺あり立たる所は一丈四五尺も有へし

431一 宝物とて夫に秘蔵の物あり深く隠して親子兄弟

2にも知らさす家内に置時は知る者ある故山中へ隠しひ3其宝物は其宝物は本邦の古き器物金具鍔目貫4小柄の類なり蒔絵物等古きもの別して秘蔵せり5の法を犯し不義ある時は罪の債として宝物を出さ6しめて相手へ謝す其罪の軽重によりて宝物の数に7増減ありたとへは宝物二十といふ時は一刀を出し8ても鍔小柄目貫と取分て二十の数に入類也此債を以9事済故絶て争論の事なく何様の六ヶ敷事にても10へ訴へて断を請る事はなし世に所謂蝦夷象眼は11今はなく元来にて仕出たる物にてなく12の乱をさけてよりへ渡り産業なきゆへ13目貫縁頭等を彫てへ渡し産物と交易して渡世14とせしなり其道具に残りたるを商船行て探し15求め重宝せしと也是によりて商舟行所には16残りたる物なく山中のには今も稀に持たる者有17には一向になきなり

18一 鷲は巣おろしを取て籠に入て飼置尾を取て交

19易とし熊も子の内に取て飼置本邦の猫のことくに手馴20女房の乳を呑せて育てあけ祭りの時是を殺して441喰ふ祭は十月下旬此方の時分なり一類寄合て2酒を呑終日相楽此日は猟をもせすたしなみの服を着し3道具を飾りてはれとす此時飼置たる熊を殺しまた4粟にてあまさけをこしらへ酒もりをするなり5にても十月あり武家より百姓まて是を祝す

6一 の性質正直なりといへとも商舟行通ひて交易に

7なれたるは偽謀の事あり別面是を知るへき事は8熊胆膃肭臍のたけりに似せ物多し熊胆は魚の9腸の苦みある所を取て熊胆の薄皮をへきて是を10包みかはかして干あくるとなりたけりは膃肭臍の11腸の筋を取て拵へ又は魚の筋をも用ゆ此両品更に12真偽わけかたし今にて求めん事を望む時は何程も13持来るといへとも正物定かならすにも多くはなき14ものなるに如此自由に取さはく事は皆偽物なる故也15近来真羽の斑に似せ出来れり斑のきれやうを以て称16美する事を知りて煙にていふして八くまの斑をも拵17らゆるとなり

18夷言

19天()/地()/日()/月( イ )/星()/風( イ )/雨(長雨をバベンオウル/雲( イ )/霧()/曇( 20雪()/水()/火()/氷()/朝()/夜( イ 闇事を通し用ゆ /昼( イ )/夕( イ )/川(川上(川下(451海( イ )/沖( イ )/嶋( イ )/磯( イ )/波()/山( イ )/陸()/谷(小川を通し用ゆ/沼()/ イ )/石(2岩()/砂()/道()/父()/母()/兄()/弟()/子( イ )/姉()/妹()/男()/女(3夫婦()/寡()/長者()/幼者()/小児()/主人(旦那と言こと也上たる者へ通し用ゆ4下人()/御領主(尊敬する事をカモイと言ふ故に神仏をもカモイと云ふ)/善人()/悪人()/頭(5耳( イ )/手( イ )/足()/背()/腹()/馬()/熊()/熊)/鹿()/犬(6狐()/狸( イ )/獺( イ )/鼠()/膃肭臍( イ )/アシカ()/ト)/猫(7鼬()/兎()/鳥()/鷲()/鷲羽()/鵜()/靎(塩漬をキリホと云/鴈()/烏(8鴇 (コビシコ)/蚤()/虱()/蚊()/蝿()/虫()/鮭()/鯡()/梟()/鮑()/魚()/鱒(9鯨()/子()/鰈()/鱈()/木()/草()/竹()/楢()/栗()/朴()/木10楓()/松()/桂()/ハンノ木()/花()/菌類( イ 11ヱフリコ 蝦夷より出菌ナリ

12イケマ 蔓艸の 根なり

13右二品はの薬にて何病にても用ゆ即効あり14切疵打身にも用ゆ

15米()/糀()/食(煮る事をシユケと云ふ/粟( イ )/稗()/酒()/上酒( イ )/濁酒(16粕()/油()/煙草()/塩()/小袖()/木綿()/帯( イ )/夷服(17金銀()/白()/赤( イ )/黒(夜も闇も通し用ゆ/黄()/家()/遊()/苫()/材木()/船(18弓()/矢()/太刀()/出刃()/針()/きせる()/火箸()/炭()/灰(19薪()/釜()/鍋()/囲炉裡()/尊()/柄杓()/斧()/鎌()/椀(20桶()/茶碗()/網()/東()/西()/南()/北()/一()/二()/三()/四()/五()/六()/七(461八()/九()/十()/百()/千()/春()/夏()/秋()/冬()/大()/小()/損(2徳()/新()/古()/長()/短()/寝()/起()/行()/帰()/悦()/悲()/好(3悪()/重()/軽()/)/狭()/髙()/低()/早()/遅()/甘()/辛()/苦(4鹹()/)/買()/生()/死()/薬()/毒()/喰()/呑()/寒()/暑()/有(5無()/合点()/不合点()/無数()/道理()/無理()/去年(6来年()/今日()/明日()/昨日()/一作日()/山(

7右夷言大概

8一 いまた領主たらさるの時代は戦国の

9擾乱に随て己々割拠して強暴を以首領とせしと10なり其頃には西海路にあり今の11居城す東海路にはに居り両雄相続て12戦争止時なし元祖にて13よりの乱をさけてへ来り14客と成て在けるか元来英雄たるによりを帰依15せしめ終にをも幕下とし一統せられしと也16其後を改めと称しの両城を17廃して東西の中央たるによりを居城とせし18より則地名を以氏とせし事は治世の頃19となりの祠あり其頃海上より唐櫃471一ッ流れ来るを取りてと称しの鎮守となし2祠を建て春秋に祭るとなり勝軍の例によりて今に3領主継目の時は必参詣し給ふとなり其4像を拝せしに尊天の像にあらすの像にて5弓箭鉾等を持たる木偶人五ッあり

6一 国初の頃侯の位席は賓客の御あしらいにて

7参覲の時は往来伝馬にて堂上の格列侯よりは格別の8事も有けるよし中頃幼主有て参覲怠りけるより9格式変異して再改る事なく

10の時より今の格に改りたるよし以前の格終かに11残りたるは嫡子乗輿鷹献上の時伝馬のみ也と聞り

12一 国に五穀生せすといへとも山海の利沢余国に倍し士民

13質朴にして利倍を事とせす誠に上古の民の風あり14治平百年の後は奢侈増長して士太夫窮し諸民15労に堪さるは古今の習なれは国の開く事遅き故にや16風俗敦厚にして衰弊のきさしなし然とも山海の利沢17民に及ふ所は古に今をくらふれは其半を滅したりと云り18古しへ砂金の盛に出る時は他邦のものも多く入込19へかけて賑ひける砂金を取運上領主へ奉る所一ヶ月に20一人砂金壱匁宛なり一匁の運上は聊なる事なれとも481数百人より納る所其取集るの日は役所に渋紙四五枚敷て2砂金を取集々々する内に山のことくに砂金集りけるとなり3領主へ納る所砂金は三十分の一にて此砂金一国の利沢と4なる事あけていふへからす後砂金の業5絶しより民の利沢も半に成けるか6 己の年より七十年以前の事のよしされは砂金の運上7なしといへとも今領主へ収納となる所も少しとせす其大8概を聞得る所

9古金千弐百匁程  材木運上

10同 千七百匁程  鯡運上

11同 千弐百匁程  商船運上

12同 千七百匁程  秋運上

13同 三百匁程   同夏運上

14同 百匁程    昆布運上

15同 千四百匁程  他国人役金

16此外畑年貢入船商物運上等瑣細の事は略す其委17しきは民間の知るへきにあらされは見分を以土器の18者のいひ伝ふる所なり

19一 山海の利沢ありといへとも五穀生せされは国勢立かたく

20質朴の民といへとも凍餒の憂は堪る事なし一とせ491不熟して売米出さる時中一同の飢饉2にて平生糧を知らさる民ゆへ余国の饑饉よりは猶更3痛深く死亡の者も多かりけるに責て麦作をたに業と4せはかる時の憂は免るへし然れとも土器のものは5漁猟を以専らとし田作に心あらす其上魚猟の時と6田作の時同時なる故数百年仕馴たる業を改むへきに7あらす土器の者は魚猟を以業とし田作の百姓は隣国の8窮民を以て田作にあて百姓の業をニにする時は怠らす9して成就すへし五穀生する時に至りては国は次第に10弘まりもおのつから習覚へて穀食となるときは11則本邦の人と化すへしといへり仍て思ふ往古12と聞ゆるは辺は残らすにて有けるを13出来て次第に風俗を変し五穀生14して今の国となれりされはには15あらす古の遺種なり16は別種なる事を正しては血脈を引家系を17乱さるもの故百代の後といへとも違ふ事なし18といふ所あり是古の関所有ける所なるへし19に蝦夷国界を去事百二十里と有は六町一里20の里数を以相考ふれは此は古の蝦夷国界501にて関所有けるなるへしを去事千五百里2国境を去事四百十二里国境を去事二百七十四里3是等里数漸合へり上代の海道しばしば変し千歳4の後違有といへとも大概違ふ事なしを去事5三千里とあるはの事なるへし里数又合り今に6は六町を以一里として三十六町を以て一里とせす7古の今はのことく大国の府城となれり8山間まて開墾して五穀豊饒に海辺は潮を漁猟をし9山よりは材を出し商船の往返絶さる様に成ける是を以10見るに後来の事をなすもの有て11ならん事有へし

12一 

13一揆の時

14の御陣に従ふ国士には15と云々は毒箭を射さ16せんため少々召連来る其体尤も異形なり身の毛17大に長して頗る牛に異ならす半弓を頭に当胡籙を18腰にさす彼の発する矢は敵に中らすといふ事19なくたとひ薄手の輩も死せさるは無りけると云々20史に見ゆる所是等を初めとすへし其頃より511朱印を賜りけるよし一統の後

2御代々 御朱印頂戴有り

3右随筆はの春よりへ至り翌年の冬4へ帰り見軍の事ともを記せし也

5白紙

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